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第149話 過去

「父さん 創のピアノ喜んでたね」 「そ、そうかな…⁇」 帰りのタクシーの中で 照れ臭そうに笑う創 俺は綺麗な髪に触れながら、なるべく優しい口調で問い掛けた 「どれくらい習ってたの⁇」 「…あ」 創は服をギュッと握っていて やっぱりまだ話せないのかなと思い、話題を変えようと口を開きかけた時、創のか細い声が響いた 「3歳〜10歳まで習ってた… 楽譜は 直ぐ覚えられたから…」 訊いておいてなんではあるが まさか答えてくれるとは思わなかった為、かなり驚いてしまい中々言葉が出ず、ハッとなって出た言葉は「そうなんだ」という何の気遣いもない台詞だった 「…お父さんが」 そのまま自分の事を話そうとしてくれる創の手を握った 少し潤んだ瞳が心配だ それでも創は 一生懸命話してくれた 「…お父さんが…Ωが嫌いな人で…僕 テストの成績は良かったから…期待してくれていたのに…僕がΩだって分かって 一カ月位した頃に お母さん 番解消されちゃって…」 言い淀む創の肩が小刻みに震え始めて 思わずキツく抱き締めた 知りたい気持ちと辛い事を思い出して欲しくない気持ちとで、俺の心は複雑な気持ちが渦巻き始めていた タクシーが自宅前に停車したのはその直ぐ後で 素早く会計を済ませると、創の手を引いて 部屋へと急いだ

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