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第150話 過去 Ⅱ
上着を脱ぐと 温かい飲み物を淹れ、自分の分と創の分をローテブルに置いた
創は伏し目がちになっていて、青い瞳の上に黄色の睫毛が覆い被さっている
「大丈夫⁇ 無理して話さなくても」
俺がそこまで言いかけると 創は大きく首を左右に振った
「…大丈夫…佑吾には ちゃんと話したいから」
創の気持ちが本当に嬉しくて、太腿にあった手を取り 包み込む様に握った
創もギュッと握り返してくれて、やっと心の底から 創の信頼を勝ち取れた様な、そんなに気持ちになれた
「ありがとう…ゆっくりで良いから」
俺がそう促すと 白い首を縦に動かし、小さな口を開いた
「お父さんに番を解消されて、お母さん 僕を連れて家を出たんだ…そこで…」
創の息は上がり始めていて 軽いパニック状態を起こしている様に見え、俺の心配はピークに達していく
強く抱き寄せると ゆっくりと背中をさすった
そんな俺の動作に合わせるかの様に、創は何度か深呼吸を繰り返すと、俺の服をギュッと握りながら 続きを話してくれた
「…そこで……知らない男の人と暮らす様になって…」
「…うん」
何となくその先が想像出来てしまい 唇を噛み締めた
今の俺には どうする事も出来ないという現実が 悔しくて堪らない
「…お母さんが居ない時に…僕の事触ったり…その……さ、させられたりしてて…」
涙声の創の頭を 自分の胸元へ寄せた
今、俺自身が創に見せられる顔をしていないと思ったから
「…発情期が来た時の練習って言われてて…それで…それで……発情期が来て直ぐ、彼処に…」
創の声は遂に嗚咽混じりになり、また背中をさすった
全てを聞いた上で 改めて以前抱いた疑問を投げかけた
「…創は…ご両親に会いたい⁇」
俺がそう尋ねると、創は涙の筋がいくつも出来上がっている顔で 俺を見上げた
でも直ぐにその視線は泳ぎ始めて、創の答えが出るまで 俺からは何も発しなかった
「…わ…分からない」
そう答えた後 ゆっくりとではあるが 俺の方を見てくれて、黄色の髪に手を差し込むと 形の良い後頭部を撫でた
毎度の事ながら この程度の事しか出来なくて本当に申し訳ないと思う
「お父さんは…僕に会いたくないと思う…お母さんは……」
考えている動作が 苦しそうに見えて仕方ない
とりあえずこの話が終わったら、創をこれでもかって位に甘やかす事に決めた
頑張って辛い記憶を引っ張って来てくれたんだ
それ位して当たり前だろ⁇
「…本当に…分からない……でも…今は…」
「うん⁇」
どこか必死な表情は 愛しさが込み上げてくる
涙に濡れた頬も 赤くなっている目も 俺に対して懸命に応えようとした証だと思うと堪らない気持ちになる
「…佑吾と…佑吾と ずっと一緒にいたい」
只でさえ創が可愛いくて死にしそうなのに、絞り出す様なその声に 不謹慎ながら ときめいてしまった俺は、創の両頬に手を添え 親指で目元の水分を取り除くと、残りを舐め取る様に 其処に唇を寄せた
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