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第168話 片影 Ⅲ

「俺 助手席に座っても良い⁇」 佑吾様をお乗せする時同様 後部座席のドアを開こうした時、それを遮る様に蓮様にそう告げられた 「…はい…勿論 構いませんが」 「ありがと」 小さな声でそう呟くと 蓮様は自分でドアを開け、そのまま助手席に乗り込んでしまった 行き場の無くしてしまった手を引っ込めると、運転席の方に回り いつも通りシートベルトを締めた 「佐倉は あの二人の事どう思ってるの⁇」 少し走り出した時に 蓮様にそんな質問をされて、前を向いたまま 何度か瞬きを繰り返した 「…佑吾様と創様の事ですか⁇」 「うん」 正直 この質問にはかなりドキッとしたし、どういう主旨で蓮様が訊いてきたのかが分からなくて 一瞬答えに詰まってしまった 「どう…お似合いだと思いますよ⁇  佑吾様がお選びになった方ですし、実際 すごく可愛らしい方じゃないですか」 「まぁ、そうなんだけど…」 「蓮様は 何か思うところがあるんですか⁇」 「別に…上手くいって欲しいと思ってる」 「そうですか…」 そう思っているならば 自分の意見を聞く必要があったのだろうか…⁇ 逃げ場の無い車内で、微妙な沈黙が若干気まずくも感じる 「あ、そういえば私、4月から創様の送り迎えもする事になったので もしかしたらお会いする機会が増えるかもしれません」 「え⁇」 この空気を打破したくてそう切り出すと、蓮様が少しだけ自分の方に寄ったのが分かった 普段横に人を乗せる事が少ない為 若干戸惑いがある 「でも 佐倉大変じゃない⁇」 「いえ、敬聖学園は佑吾様達のマンションと会社の丁度中間位ですし、その分のお給料もきちんと頂けますので問題ございません」 「そう…なんだ…じゃあ佐倉、4月から毎日うちの学校来るんだ…」 「はい」 「そっか…」 そんな相槌の後、蓮様が窓の外に顔を向けてくれて少しだけホッとした 信号に捕まった時、何となく横を見ると 窓に映った蓮様が控えめに微笑んでいて、佑吾様とは違うその笑い方に見惚れてしまっていた 「佐倉、青になってる」 いつもの表情に戻った蓮様にそう指摘されて、ハッとなり直ぐに前を向いた 「も、申し訳ございません!!」 「いや…俺は全然大丈夫だけど」 高校生相手にこんなに心乱れる事が恥ずかしい 何だかここ数年で1番の動揺を人に見られてしまった気がして、蓮様に気が付かれない程度に何度か深呼吸を繰り返していた

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