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第170話 父親
物心ついた時には 父と二人きりだった
所謂種の方の親は居なくて 父もそれに触れる事はなく、子供心に訊いてはいけない事だと思っていた
それでも自分の事を一生懸命育ててくれたし、いつも笑顔で優しい父が大好きだった
そして10歳の性別判定の時、自分に下された結果に父は泣いていた
それからは必要な教養をつけようと塾にも行かせてくれて、おかげで成績は常にトップクラスにいる事が出来た
片親な上にΩ性の父だったが、特に生活において我慢を強いられる事はなかった
それはとても有難い反面、何の仕事をしているのかだけがずっと気になっていた
スーツを着ている所は見た事がなく、帰宅が深夜になる事もあって普通の仕事でない事だけは 理解していた
中学に上がって少し経った頃、学校から帰宅している途中で父の姿を目撃した
道路の向こう側にいる父は自分には気付いていない様子で咄嗟に後をつけてしまった
電車で都内まで来ると繁華街の方に歩いていく
特質な雰囲気の街に嫌な予感しかしなかった
父があるホテルの前で止まり スマホから電話をかけると、スーツの男が父に近付き 肩を抱いてその中に入って行った
ショックで頭が真っ白になったがこれだけは分かった
父は売春夫だったのだ
Ωの雇用は少しずつ改善されているとはいえ、未だに根強い差別が絶えない
父にとって 自分と生きていく上ではこれしか選択肢が無かったのかもしれない
それでも言い表せない嫌悪感と喪失感に襲われて足がガクガクした
そこからは どうやって家に帰ったのか覚えていない
気がつくと自分のベッドの上で泣いていた
どれ位時間が過ぎた頃だったか、風呂に入ろうと脱衣所に入り、鏡に映った自分の姿に強烈な吐き気が襲って来てトイレに駆け込んだ
自分の見た目は父と瓜二つで、先程の事を思い出すと涙と嗚咽が止まらなかった
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