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第173話 恩義 Ⅱ
どうしよう…
抜けて良いタイミングが分からない…
「やはり 桃坂さんの所にお願いして良かったですよ」
「ありがとうございます」
社長と取引先の方々はかなり盛り上がっている
俺も何とか笑顔を張り付けてお酌を続けるが、アルコール以外の体の熱に手元が狂いそうになっていた
「…佐倉君、ちょっと ここに電話して来てくれないか⁇」
「え…⁇」
社長に手渡されたメモには『少し休んできなさい』と書いてあった
俺はその紙をギュッと握りしめると頭を下げて急いで廊下に出た
そのままトイレに向かい、スーツの内ポケットに手を入れてハッとなった
自分の持つこの抑制剤はアルコールとの同時摂取は厳禁の物だ
今までろくな人付き合いもせず、そういう場は避けたり 飲まずに適当にやり過ごしていた自分に まさかこんな機会が訪れるとは思ってもいなかった為、その事に気付いた瞬間 頭の中がパニックになった
どうしよう…どうしよう…どうしよう…
戻らなきゃという思いとは裏腹に体が敏感になっていくのが分かる
震える手でベルトに手をかけた時だった
自分の入っている個室がノックされαに嗅ぎつけられたのかと思い、恐くて涙が溢れた
「…あ…あ」
体が小刻みに震え始めると同時に、外から柔らかい声が聞こえた
「佐倉君 大丈夫か⁇」
「…しゃ、社長⁇」
「ああ… 一度 ココを開けてくれないか⁇」
社長もαだ
開けたらどうなるか 容易く想像出来るのに、優しい声色にスライド式の鍵を横にズラしていた
「…発情期だね」
開けた先にいた社長は顔色一つ変えず自分を見ていた
襲われない事への疑問よりも、これで自分はクビになるんだと思うと涙が溢れて止まらなかった
「…も」
申し訳ございません
そう謝罪しようとした言葉を遮って、社長は胸ポケットから薬を取り出し、自分に渡してくれた
「飲みなさい
アルコールと一緒でも問題の無い物だ」
「…え⁇」
「早く」
「は、はい」
自分が飲み込んだのを確認すると、社長はまた優しく微笑んでくれた
「体が落ち着いたら 戻ってきなさい」
「…はい」
数分後 体の火照りも取れ、席に戻ると何事も無かったかの様に宴会は続いていた
取り敢えずまた笑顔で社長の横に座ったが、内ポケットに入っていた物の事を考えるとさっきとは違う笑顔になってしまっている様な気がした
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