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第178話 慕情 Ⅲ〜side蓮〜
久し振りに佐倉と沢山話してすごく緊張した
今でも心がフワフワして落ち着かない
自室に戻り、何となく窓の外を見ると まだ佐倉の車が停まっている事に気が付いて、思わず窓を開けた
が 次の瞬間には走り出してしまい、窓枠をグッと握り締めた
「…佐倉」
冷たい空気が頬を掠めて、何とも言い難い気持ちが込み上げてくる
次に会えるのは また一カ月は先になるんだろう
それでも兄さんが家を出てしまってからの会えなさに比べれば、格段にマシではあるが
「…はぁ」
深い溜息を吐き出すと窓を閉めてベッドに沈み込んだ
目を閉じると初めて会った日の佐倉の笑顔が浮かぶ
『初めまして 蓮様、佐倉 真也です』
あの綺麗な笑顔と柔らかな雰囲気に一目惚れ
でも最初はβの男の人にこんな気持ちを抱くなんてとずっと悩んでいた
それでも 会う度にどうしようもなく惹かれてしまうのを止める事なんて、自分では出来なかった
中等部に上がって2年が経とうとした頃
父さんの書斎に借りた本を戻しに行った時、机の上に積まれた書類の山の中に佐倉の写真が見えた
今よりも大分幼い顔つきに好奇心が抑えきれず、その書類をそっと引き抜いた
そして次の瞬間にはドクンッと心臓の跳ねる音が、確かに自分の耳にも聞こえたんだ
「…え⁇」
どうやら履歴書らしきその書類の性別欄にはβと書かれた所に二重線が引かれ、直ぐ上にΩと訂正してあったのだ
夢を見ているのかと自分の頬を強く引っ張るもしっかり痛くて、尚のこと興奮が抑えきれなかった
その書類を元の場所に戻すと自分の部屋に戻り、冷静になる様自分に言い聞かせたがドキドキと胸が煩過ぎて、それはかなり難しかった
「…佐倉…Ωなんだ…」
きっと コレが運命なんだと思った
しかしそんな矢先、とあるパーティーに出席して佐倉を発見して声を掛けようと思ったが、いつもとは全く違う切なそうなその表情に無意識にその視線を辿っていた
その先には兄さんが居て、ショックと同時に納得も出来る自分もいた
昔から兄さんを悪く言う人には出会った事が無かったし、俺だって慕っている
ずっと一緒にいれば それはそうなるよね
そんな自嘲の笑みを浮かべながら佐倉に歩み寄った
佐倉は俺に気が付くといつもと同じ和かな表情に変わっていて、何故か胸の奥がズキンと痛んだ
佐倉の気持ちに気が付いてから 兄さんは佐倉の性別の事を知っているのか気になり、二人で食事をしている時に「佐倉ってβなのにすごく優秀だよね」と切り出してみた
兄さんは俺の言葉に笑顔で頷くと佐倉が如何に凄いか語ってくれて、その様子を見る限りでは本当に何も知らない様に見えて安心した
兄さんは嘘がつけるタイプの人では無いし、それに佐倉が兄さんの事を好きなら 俺にも少しは チャンスがあるかもって思った
だって 兄さんと俺は昔から見た目が似ていると言われる事が多かったから
更に年々縮まっていく身長差や体格差
父親にすら似ていると言われる声色
佐倉が兄さんへの想いを募らせる程 この容姿が武器になるんじゃないかって、そんな事ばかり考えていた
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