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第197話 牽制 Ⅲ〜side理央〜
「さっきのは 何だ」
「何って…見たまんまですけど⁇」
悪びれた様子のない稜に、蓮君は組んだ先の指をトントンと動かしている
稜は悪い子じゃないんだけど、こういう態度が蓮君をイライラさせちゃうんだよね…
二人の会話をヒヤヒヤした気持ちで見つめていると、稜の方がまた口を開いた
「あんな可愛い子、桃坂先輩の名前だけじゃ駄目ですよ
意味 分かりますよね⁇」
稜の言ってる事は ごもっともで、僕もそれがすごく心配だった
実際、今日の稜の発言は 創を守るという所だけを見るなら大正解だと思う
「松岸先輩だって、あの激怖お兄様がいなかったら もっと大変な目にあってますよ…ねえ⁇」
「う…うん⁇」
僕の双子のお兄様達
片方はΩもβも嫌いなお父様にそっくりで、僕の事に興味なんてないけど、もう一人のお兄様は 過保護の域を超えた可愛がりかたをしてくれていて、僕の交友関係は蓮君以外の人を認めてもらえた事がない
これまで稜以外の人達は 皆病院に行く事になってしまい、そのまま僕から離れていった
おかげで、僕に近付く人は 今では現れる事はない
「そういえばお前、中等部の時 松岸の事追いかけ回してた時あったな
松岸のお兄さんが怖いからもう良いとか言ってたけど、創の事だってどうせその程度だろ」
「違います
創の事は 桃坂先輩のお兄様がどんなに怖くても諦めません
それに もし俺が創と番になっても、別に親戚になるわけでもないし」
稜が喋る度に 蓮君の眉間に皺が刻まれていく
「兎に角 創には手を出すな 分かったか⁇」
「………」
「返事!!」
「そんな約束出来ません
桃坂先輩には 好きな人いないんですか⁇
そんな事言われて、はい分かりましたって言います⁇」
稜の言葉が胸に刺さったのか 蓮君は一瞬口を開いたけど、結局黙ってしまった
「じゃ、仕事ある時にまた来ます」
そう言って生徒会室を出て行く稜を見送った後、蓮君のブレザーの裾を少し引っ張った
「…蓮君⁇」
「…最低だな
俺は…兄さんや創の為だとかもっともらしい事ばかり言って、結局自分の事しか考えていない…」
「そんな事ないよ」
項垂れている蓮君の手を取ると 僕はいつもの様に笑顔を作った
「大丈夫、万が一 佑吾さんと創が上手くいかなくても 佐倉さんは蓮君の事選んでくれるよ」
「…松岸」
「それに…僕は どんな蓮君も好きだよ⁇」
いつもドキドキしながらこの台詞を言う
それなら もうお前にしようかなって言って欲しくて…
「ありがとな」
そう言って僕の頭にポンと手を置く蓮君
ずっと変わらないこのやり取りに胸の奥が苦しくなって、蓮君が触れた部分の髪をギュッと握り締めていた
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