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第198話 牽制 Ⅳ

「あのさ…榎戸先輩って チャラチャラしてそうに見えるかもしれないけど、実際は全然そんな事ないんだぜ⁇」 「え⁇」 教室に戻るなり 健にそう切り出されて、僕は無意識にそんな風に返事をしていた 「俺 こんな見た目だから、空手やってて 色々言われる事多くてさ…  それで中1の時に 3年の先輩に嫌がらせみたいな事されたんだけど、榎戸先輩が庇ってくれたんだ」 「…そう…なんだ」 「あの人、人望厚いんだぜ⁇ だから 生徒会の副会長とかもやってるし」 「…うん」 これ以上どう返事をしたら良いか迷っていると、健が僕の頭にポンと手を置いた 「榎戸先輩は 人が嫌がる事はしないって事が言いたかったんだ  創には佑吾さんがいるのに こんな話困るよなって思ったんだけど、でも先輩の事 誤解して欲しくないからさ」 「…健」 健の言う通り、榎戸先輩は悪い人じゃないと思う でもどうしたら良いのか 本当に分からなかった 数日前まで 僕の世界は佑吾が全てだった 佑吾以外何も要らないと本気でそう思っていたし、今でも基本的にはそう考えている でも 優しくしてもらえたらやっぱり嬉しいし、僕も何か返したいって思うけど、榎戸先輩みたいな好意にはどう返したら良いの…⁇ 人との距離は 今まで0か100かしか無かった僕にとって、その答えは見当もつかなかった 「…難しい」 「ん⁇」 「あ…ううん、何でもない」 「そう⁇」 授業の始まりのチャイムが鳴り、一人になった席で自分の両腕を摩り上げながら、昨日佑吾から貰った温もりを思い出していた やっぱり ああいう事がしたいのはもう佑吾だけ、他の人なんてもう絶対に無理だと思った 「…うん」 次 榎戸先輩に会ったら、もう一回ちゃんと言おう 榎戸先輩の気持ちには応えられないって そう強く心に誓い 視線を前に向けた

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