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第203話 率爾 Ⅱ

「…蓮様 いかがされましたか⁇」 ご自宅の前に到着するも 蓮様は一向に動こうとしない 道中も無言だったし、自分は何か気に触る事を言ってしまったのか、さっきから懸命に考えを巡らせているが思い当たる事がなくて内心困り果てていた 「…佐倉」 「はい」 呼ばれて顔を向ければ 端正な横顔に少し見惚れてしまった 今日も佑吾様によく似ている そんな事を考えた罰が、この後当たったんだと思う 「…佐倉 兄さんの事 好きなんでしょ⁇」 蓮様の口から出てきた言葉に、ドクンと心臓が五月蝿いくらい騒ぎ出した そのせいで手は震えるし、喉が張り付く様な感じがして声も出し難い 「…あ……え…⁇」 蓮様はゆっくり此方を見ると何故か少し泣きそうな目をしていて、早く否定しなくちゃいけないのに上手く言葉が出てこなかった 「でも 兄さんは創の事しか考えてないよ…⁇」 そんな事は言われなくても分かっている 佑吾様と自分がどうこうなれるなんて、1ミリも考えていない でも改めて言われた事に思いの外ショックを受けて俯いていると、蓮様は信じられない事を口にした 「…俺じゃ駄目⁇」 「…え⁇」 シートベルトを外した蓮様は運転席を掴むとグッと間近に迫って来た 咄嗟にその肩を掴むも逆に手首を握られてしまい、狭い車内で完全に逃げ場を失ってしまった 「佐倉…好き…初めて会った時から…ずっと…ずっと好きだったんだ」 「……え⁇…は⁇…え⁇」 頭が混乱し過ぎて 事の整理が全く出来ない 蓮様が自分を好き…⁇ 何で…⁇ どうして…⁇ 今 一体 何が起こっているんだ…⁇ そんな疑問は声にもならず、ただオロオロする事しか出来ないでいると蓮様に更に返答に困る事を言われてしまった 「ねぇ、俺の顔 兄さんとそっくりでしょ…⁇  俺の事 兄さんの代わりにしてよ…  佐倉が望むなら兄さんみたいに笑う努力もするから…」 「…そ…そんな…事…」 して良いはずがない この方は立派な家柄の優秀なαで自分なんかと釣り合う方ではない 「わ、私は…βですから…」 何とかそう告げるも、蓮様が自分の手首を掴んでいた力を更に強くされて、その痛みに顔が歪んでいく 「…違うよね」 「え…⁇」 「佐倉 本当はΩなんでしょ⁇」 その単語に目を見開いていた 何故バレているのかという事とまさか佑吾様も知っているのかという不安に駆られ、心臓が嫌な速さで動いていく 「…ち、違」 「ゴメン…父さんの部屋で、佐倉の書類勝手に見ちゃったんだ…  でも 兄さんは知らないと思う…」 その言葉に 一瞬安堵するも状況を掴めないのは変わらず、表情を戻せない上に、何の言葉も発する事が出来なかった そして蓮様からは更に信じられない台詞が発せられた 「俺と…番になって欲しい」 「…え⁇」 さっきからこの一言しか出て来なくて本当に情けない でも それくらい自分の身に起こっている事が信じられなかった だって…番⁇ 蓮様と⁇ 自分が⁇ あまりにも現実味が無さすぎて想像もつかない 何より… 「…わ…私は…」 佑吾様が… 無理だと分かっていても それでも… 「俺の事 兄さんだと思っても無理…⁇」 そんな問い掛けをされながら眼鏡を外された クリーンな視界に入ってきた蓮様は切なそうに眉を寄せていて、その顔を拒絶する事が出来なかった 「…佐倉」 抱き締められた瞬間 佑吾様と同じ香りがして、自分でも気付かないうちにポロッと涙が零れた まるで彼の方に抱き締められている様な感覚に襲われて、無意識にその背中に手を回していた 「…佑吾様」 本当は ずっと触れたかった 初めて感じる人の温もりはすごく心地良くて、与えられる感覚に酔いしれてしまっていた

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