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第204話 率爾 Ⅲ〜side蓮〜

「…佑吾様」 嫌じゃなかったのかと訊かれたら、正直すごく嫌だった でも 卑怯な事をしているという自覚はあったし、やっと佐倉をこの腕の中に抱けたという満足感の方が強かった それでも兄さんの名前を呼ばれた時は腕に力が入ってしまったとは思うけど… 「…佐倉」 少しだけ身体を離してその顔を見るとあの佐倉が泣いていた 分かってはいたつもりだったけど、そんなに兄さんの事が恋しいのかと思うと俺も涙が出そうになった 「…好きだよ」 指で涙を掬い上げると形の良い唇に自分のを重ねた 初めて交わしたその味は涙が染み込んでいて、少しだけ塩辛かった 「…あ」 佐倉は目を丸くさせながら自分の唇に触れている 意外な程初々しいその反応に正直ムラッときて、口の前にあった手を取ると少し開いていた所に 自分の舌を差し込んだ 「ふう!?」 耳まで真っ赤にして震える佐倉に何だか感動した 兄さんも見た事無いであろうその表情に若干の優越感を覚える 外を対向車が通った瞬間ハッとなったのか肩を何度も叩かれて仕方なく口を離した 「…れ…蓮様…人が」 「…うん…ごめん 急に…でもキスした事は謝らないから」 眼鏡が無いだけで佐倉は少し幼く見えた 明らかに困惑した表情を浮かべる佐倉に考える隙を与えない様、言葉を選びながらまた狡い問い掛けをした 「今直ぐどうこうとかはしなくても良いから、たまにこんな風に二人で会いたい…ダメ⁇」 「…だ…ダメ……という事は…ない……です」 佐倉からその台詞を引き出すとやっと少しホッと出来て、自分の体を助手席に戻した 「良かった…じゃあ また連絡する」 「…あ…はい」 車から降り手を振ると佐倉は放心した様な表情で頭を下げた 運転大丈夫かな… 車が見えなくなるまで見送ると佐倉へのメールを打ちながら家の門を潜った

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