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第212話 欝憤 Ⅱ

「ねぇ…そうなんでしょ⁇  だって普通に考えたらあり得ないじゃないですか  あなたみたいな立場の人と創が何処で出会うんです⁇  しかも、もう一緒に暮らしてるっていうし…」 「…だったら何だ」 別に知られたから困る様な事でもないと思い直し、疑問に疑問で返すと彼はフッと笑った 「やっぱりそうなんだ…  実は俺の母親もそこの出身なんですよ」 その事実には流石に驚いてしまい、次の言葉が中々出てこなかったが やはりだから何だと思ってしまう それが顔に出ていたのか、彼は黙りな俺に構わず 喋り続けている 「俺も20歳になったら 一度其処に足を運ぶつもりでした  もし 創がその時まで居てくれたら…」 「…創にあと何年か我慢してくれていたらとでも言いたいのか⁇  ふざけるな!! あの子が…どんな思いで…」 言いながら初めて家に連れ帰った日を思い出していた 常にビクビクしていて目も合わせてもらえなくて、ご飯を口に入れてくれた時 どんなに嬉しかったか… 「でも あなたがした事って只の刷り込みですよね⁇  誰だって劣悪な環境下に居て優しくされればその人が神様の様に思えてくる  今だってあなたに見捨てられたら創は生きていけない  あの子に選択肢なんて最初から無いじゃないですか」 まぁ…そうやって言われればそうかなとは思う でも…それでも… 『…ず…ずっと……ゆうごと…い…… 一緒にいたい…』 あの時 泣きながらそんな風に言ってくれて、愛しさで胸が押し潰されそうだった その涙を掬い上げながら何に代えても絶対に守り抜くと心に決めたんだ それが例え卑怯な刷り込みをしたと言われても… 「…例えそうだと言われても実際に創の心を開いたのは俺だ  番になるのも俺だし、あの子を幸せにするのも絶対俺だ!!  これ以上手を出すな!!」 捲したてる様に怒鳴りつければ相手は不服そうに唇を噛みしめている 「幸せって…この前だってレイプ未遂にあったばかりなのに⁇」 「…レイプ未遂⁇」 何の事だか解らなくて同じ言葉を繰り返してしまった 創が⁇ いつ⁇ どこで⁇ 「もしかして 聞いてないんですか⁇  創、学校で三年生四人に襲われて、危うくヤラれそうだったんですよ⁇  偶々俺がその現場に居て、未遂に終わりましたけど…」 事のあらましを聞いて思い当たる日が 一日だけあった 創が遅くまで俺を待っていてくれてシタイと強請られたあの日 いつもと違ってやけに積極的だと思っていたがまさかそんな事が… 「一緒に住んでて様子おかしいとか気が付かないもんですか⁇ それで本当に創の事」 「気安くあの子の名前を呼ぶな!!」 俺が叫んだ事で相手の肩がビクッと跳ねるのが見えた 何もかもが許し難くて体がワナワナと震える 『はい 創(そう)君です よろしくお願いします』 もう随分昔の様だが最初はそんな風に呼んでいた 『はじめ』という本当の名前を教えてもらえたのは一週間も経ってからだった 「…ふざけるな」 創の異変に気付けなかった自分も この男が助けた事も 俺が最初は呼べなかった名前を他の人達が当たり前の様に呼ぶ事も  兎に角全ての事が、この時の俺には許せない対象になってしまっていた

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