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第221話 阿鼻叫喚 Ⅴ〜side榎戸〜

「…別にお前がという訳じゃないだろうし、俺が良い訳でもない」 この桃坂先輩の言葉の意味が分からなくて、無意識に出た疑問符の後、その背中を只ジッと見つめた   ベッドに寝かされた創は先輩が離れようとするとその服にしがみつこうと必死に手を伸ばしている 「嫌!! 佑吾!! お願い 行かないで!!」 「大丈夫 ずっと側にいるよ」 優しい声色の桃坂先輩はかなり新鮮だったが、創の呼び方にさっきの先輩の言葉の意味がやっと理解出来た 「創 少し眠ったら⁇ ちゃんと此処にいるから」 「…ほ…本当⁇」 「本当だよ」 桃坂先輩は小さい子を寝かしつけるかの様に布団をポンポンと叩いている 創からかすかに寝息が聞こえてくると握られていたジャージを脱ぎ、それを抱かせてやっていた 創は眠りながらも一生懸命それに頬ずりしていて、その仕草がめちゃくちゃ可愛かった 「よし 行くぞ」 「何処にですか⁇」 振り返った先輩にそう言われて、何の事か分からなかった俺が素直にそう口にすると先輩はまた眉間に皺を寄せた 俺の前では桃坂先輩は大体いつもこんな顔だ 「授業に決まってるだろ  サボリなんて許すと思ってるのか」 「サボリなんかじゃありません  本当に体調悪いんでちょっと寝かせてもらおうと思ったんです」 まぁ、嘘なんだけど… 昨日家に帰ってからもずっと悶々と考えてしまい、ただ寝不足なだけだっだ 俺の言葉に桃坂先輩は疑ぐり深い目を向けてきて、誤魔化す様にヘラッと笑った 「もし創が目を覚ましてパニックになったら可哀想だし、先輩に直ぐ知らせますから」 「…それ以外で創に関わる事は許さないからな」 「は〜い」 ちゃんと返事をしたのに桃坂先輩の怪訝そうな顔付きは変わらなかった 正直 昨日の佑吾さんとの対面もあったし、違うとは分かっていてもよく似た面立ちの先輩にそういう目で見られると何とも言えない複雑な気持ちになった 「…後でまた様子見に来る」 「分かりました」 先輩が出て行った後、ベッド脇の椅子に腰を下ろし創の寝顔を見つめた 目元が赤味を帯びていて、あの後佑吾さんに怒られてしまったのかと思うと流石に申し訳なくなった 「…創」 頬に手を伸ばそうとした時、創が微妙に寝返りを打って触るのを思い止まった 「ん⁇」 創が動いた事で襟足の髪が少し乱れ、白い項に何か跡があるのが見えてそっと髪を上げると其処に散りばめられた赤い鬱血痕に思わずハッと声を出して笑ってしまった 「…すっげぇ独占欲」 そう呟きながらも何とも言えない程悔しくて、初めての気持ちのやり場が無かった俺は、近くにあったシーツを強く握り締めていた

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