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第230話 深意 Ⅴ〜side佑吾〜
「佑吾さん コレ」
創が鞄を取りに行くというので昇降口で待っていると榎戸君から一枚の写真を渡された
「これは⁇」
監視カメラの映像らしいその写真には 一人の男が写っていたが、見覚えの無いその姿に俺は首を捻った
「うちの学校の周りウロついてた奴で創のパニックの原因
なんか創の事探してたみたい」
「え!?」
「一応 正当防衛って事で 一発ブン殴っておいたけど…また来るかもしれないんで渡しておきます」
「正当防衛⁇ どんな奴か分からないのに君危ないな」
俺がそう言うと彼はニッと笑った
「俺、空手 黒帯なんで」
「…へぇ」
失礼ながら彼の身なりから少し意外だなと思ってしまった
俺も護身術で合気道を習っていたし、周りの奴らも誘拐対策などで色々やっている者は沢山いたが極めている奴は珍しかった
「…でもそうなると 一歩間違えると君が罪に問われるから気をつけて」
「分かってますって
だから向こうが殴ろうとしたのかわして殴ったし」
「そうか…ありがとう 助かるよ」
だが昨日の今日で俺に協力的とも取れる対応に驚いたのも事実
それが顔に出ていたのか、彼は複雑そうに頭を掻きながらさっきとは違う顔で笑った
「俺だって 創には笑っててほしいですから」
その台詞につられて俺もフッと笑ってしまった
「そうか でも手は出さないでくれよ⁇」
「え〜⁇」
お互い笑顔で火花を散らしていると創が小走りでやって来た
「お待たせ…どうしたの⁇」
「「何でもないよ」」
「⁇⁇」
俺達の様子に創は明らかに戸惑っている
まあ、当然といえば当然なんだが
「靴取っておいで 向こうから一緒に帰ろう」
「うん」
創が下駄箱に向かうのとほぼ同時くらいに榎戸君が 俺に背中を向けた
「じゃ、俺はこれで」
「ああ…」
何となくだけど悪い子じゃないんだろうなと思った
それでも創だけは絶対譲れないけれど
「佑吾」
呼ばれて振り返り、直ぐそばまで来ていた創の腰に手を回した
「帰ろうか」
「うん」
手を上に滑らせて黄色い髪を撫でれば、仔猫が甘える様な表情を見せてくれて、その愛くるしさに 眩暈がしそうだ
「…佑吾 来てくれてありがとう…嬉しい」
「俺は創の為なら何処にでも駆けつけるよ」
「…佑吾」
潤んだ瞳に愛しさが込み上げてきて堪らない
創を家まで送った後、なるべく早く帰る事を約束して俺は再び仕事へと戻った
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