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第231話 心憂
「…蓮君、そろそろ帰る⁇」
「ああ」
書類を片付けたら生徒会室に鍵を掛けて廊下を歩く
いつもと変わらないけど、いつもと違う事がある
「どうした⁇」
「…うん」
蓮君の機嫌がとても良い
聞きたくないのに気になって仕方がない…
「…蓮君 何か良い事あった⁇」
「え⁇」
「今日なんだか、いつもより嬉しそうに見えたから…」
「…創にあんな事があったのに不謹慎か⁇」
「ううん だって佑吾さんが迎えに来てくれたんでしょ⁇ だったらもう大丈夫だよ」
「そうか…実は…」
少しだけ赤くなった頬に目の奥が既に熱くて、喉が絞られる様な感覚がした
…どうしよう…泣きそう…
「昨日 佐倉に告白した」
ドクンって心臓の音が確かに聞こえた
そのまま速度を保ちながら、身体中の血脈が騒いでいく
「番になって欲しいって言うのには頷いて貰えなかったけど、また二人では会ってくれるって… でもかなり卑怯な言い方したから…それは反省してる」
「…大丈夫だよ
本当に嫌だったら二人で会うの良いなんて言わないよ」
「そうかな⁇」
「…うん」
羨まし過ぎて胸が痛い
僕だったら番になって欲しいなんて蓮君に言われたら、泣いて喜んで直ぐに噛んで貰うのに…
でも僕は佐倉さんじゃないから、その台詞を言ってもらえない
分かっているけどそれでもすごく辛い
「…良かったね!!
きっと佐倉さん、直ぐ蓮君の事、大好きになっちゃうよ!!」
言いながら嫌な自分が顔を出す
佐倉さんが蓮君の良い所に気が付くなんて嫌
すごく嫌 本当は気付いてなんて欲しくない
だって僕の方がずっと前から蓮君の良い所 沢山知っていたのに…
そもそも もしそうなったら僕は蓮君の横でこんな風に笑えるんだろうか…⁇
今だって ちゃんと笑えているか 心配で堪らない
「そうだと良いな…」
蓮君の嬉しそうな顔がこんなに辛かったのは初めてだ
もう堪えきれなくなった僕はパッと蓮君に背中を向けた
「松岸⁇」
「ごめん 蓮君!!
僕 教室に忘れ物しちゃったみたい!!
だから先に帰ってて⁇」
「そうか…だったら俺も」
「ううん!! 一人で大丈夫!! また明日ね!!」
それだけ言うと廊下を走った
まだ ダメ…もうちょっとだけ頑張って…
そう自分に言い聞かせると中庭まで駆けて行き、ベンチの脇で踞った
「…う……うぅ……」
やっと泣けた
涙が後から後から止まらなくて自分でコントロールが出来ない
押し潰されそうな胸の痛みに従う様に只ずっとその場で泣き続けた
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