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6 お披露目会~初日~

 夏央(なつお)は意地を張ってしまった事により、少年愛嗜好者の常連客達に、お披露目される事となってしまった。  翌日、早速予約が入ったことを(えんじゅ)が伝えに来た。そしてルールをひとつ、教えられる。 「基本的には、少年が主体となってる。だから少年が嫌がれば、客はその行為を直ぐにやめなければならない。…大抵、事前にしてもいいか確認されるから、断る余地はあると思うよ。」 「お金貰うのに…そんな感じで、本当にいいんですか?」  夏央の疑問に、槐は少しだけ考える素振りを見せた。 「…そういう遣り取りを、楽しんでるのかな?今の常連さん達は…。」  槐は夏央を洗面室へと連れて行くと、アンティークな猫脚のドレッサーの前で、下を全部脱ぐように言った。その手には安全カミソリが握られている。 「あの、それは…どういう…?」  夏央は察したくないような気持ちに囚われる。 「念の為だよ。…最初だし、性的な触り方はNGにしてるけど、見られる可能性はあるからね。…下、生えてるでしょ?」 「まあ、少しは…。でも、服を脱ぐの、拒否してもいいんですよね?」 「勿論だよ。…でも、夏央君が断れない場合も、あるかも知れないでしょう?…どう?やめたくなってきた?」  槐に探るように見つめられ、夏央は軽く怯んだものの、後へは引けないのだと、自身に言い聞かせた。 「…いえ。予約、入ってますし…。」 「ご免ね。…下がつるつるの男の子が、好きな人達ばっかりなんだよ。」  槐は小さな溜息の後、やっと生え揃い始めた夏央のアンダーヘアを全て剃り、そして、また溜息をひとつ吐いた。  お披露目会当日になり、緊張、そして後悔と恐怖心等のネガティブな感情に苛まれる夏央に、絢斗(あやと)が背後から(くすぐ)り攻撃を仕掛けて来た。 「やめてよね!全然、緊張、解れないし!」  夏央が振り返って文句を言うと、込み上げる笑いを我慢しながら、絢斗は軽く謝った。 「悪かったよ。…今日って、蠍座さんだったよね?」 「そうみたい。…ってか、その星座に”さん”付けって、どうして?」  ここでは客を星座に「さん」付けで呼ぶ。夏央はなんとなく、それに馴染めないようだった。 「どうして…って、みんな素性を隠してるからさ。それで、当初は好きな呼び名を提示して貰ってたらしいんだけど、誰かが星座に”さん”付けを希望して、面倒臭がりの人がそれに倣ったのが始まり…って、俺は聞いてる。…まあ、たまたま今の常連さん達の星座は被ってないし、俺は慣れたよ。でも、気を付けてないと、呼び間違いそうになるから、そこは注意してな。」  夏央が神妙な顔で頷く。呼び間違いをしない事、と口の中で反芻していると、絢斗が先輩風を吹かせて肩を叩いてきた。 「…大丈夫だって!キャバ嬢みたいに話し合わせて、笑っておけばいいんだよ。」  絢斗のアドバイスに、夏央は浮かない顔をする。 「キャバ嬢に会った事ないし、よく分かんないんだけど…。」 「あ、俺もないや。それじゃあ、やっぱ、あれだな!夏央の場合は、お人形さんって感じにしてれば、いいと思う。それに、一時間だろ?あっという間だよ。頑張って来い。」  夜七時になり、最初の客となる蠍座さんが到着したと、槐に告げられた。  蠍座さんリクエストだという、結婚式等で着るような紺のフォーマルスーツを着て、館の二階の一室に赴く。  部屋に入ると、そこは大きな衣裳部屋といった印象で、洋品店にあるような移動式の洋服掛けが幾つかあり、色んな種類の服が揃えられていた。  夏央を出迎えたのは、中肉中背の、派手な装飾のアイマスクをしている男だった。服装は高級そうではあるものの、普通のビジネススーツを着用している。  年齢は四十代後半から、五十代前半といった印象を、夏央は受けた。  その男、蠍座さんは、夏央を上から下まで、ゆっくりと観察した。 「君に会えるのを、楽しみに待ってたよ。このスーツ、…オーダーメイドではないけれど、大体のサイズは聞いていたからね。よく、似合ってるよ。」 「有難うございます。」  今着ているスーツは彼が用意したものなのだと、夏央は初めて知った。 「写真、撮ってもいいかな?」 「はい…。」  夏央が緊張を隠せないまま承諾すると、蠍座さんは足元のトランクから、大きな一眼レフカメラを取り出した。  硬い表情のままの夏央を被写体に、蠍座さんは嬉々として、あらゆる角度から連射を繰り出す。 「顔、小さいねぇ。睫毛も長いし…。はい、目線、こっちに…。」  暫くして、蠍座さんは洋服掛けに向かい、別の衣装を選んできた。 「あと今日は…これも、君の為に持ってきたんだけど、着てくれるかな?」  蠍座さんが手にしたそれは、どう見ても女性用の白いドレスだった。 「あの…。」  夏央は戸惑い、断ろうか迷ったが、目の前の期待に満ち溢れた感情が伝わってくると、思わず承諾する事を選んでしまった。 「…いいですよ。」  夏央がドレスを受け取ろうとすると、蠍座さんがドレスを一旦、洋服掛けに戻し、制止する。 「ああ!待って!…着せ替えは、私に任せて欲しい!君は…じっとしてて。…いいよね?」 「いや、でも…。」 「男同士だし、恥ずかしくないでしょう?」 ――恥ずかしいです…。  その一言が結局、口から出せず、夏央は観念して体を差し出す形となった。  蠍座さんは、夏央から衣類を取り除き、床に散らしていく。  その手がブリーフに掛かったところで、夏央は抵抗を見せた。 「下着はちょっと…!」 「え!?…男物のパンツで、あのドレスを着るつもり?」 「ダメですか?」 「私は完璧主義者でね、分かるかい?」  蠍座さんは、持参していた白いレースの下着と、ストッキング、そしてガーターベルトを夏央に差し出した。 「それは…まあ、分かります。」  完璧主義というところに理解を見せた夏央だったが、蠍座さんは少し勘違いをしたようだった。 「そう、良かった。じゃあ、早速、脱いでしまおうね!」  焦った夏央は訂正が間に合わず、譲歩して貰うように素早く切り替えた。 「あの、下着だけは自分で着替えても、いいですか?」 「しょうがないな…。順番的には、これからだけど、分かる?」  蠍座さんはガーターベルトを差し出した。受け取った夏央は、よく分からずに首を傾げる。 「これ…どうしたら、いいですか?」  夏央が問うと、待ってましたと言わんばかりに、蠍座さんは手を出してきた。 「分からないよね?…それじゃあ、手伝ってあげよう!」  そして蠍座さんは、一瞬の内にブリーフを下ろしてしまった。 「あ…!」  夏央が短く上げた声を気にする風もなく、蠍座さんは全裸になった夏央に、白いレース付きのガーターベルトを装着した。 「次はこれね。転ぶと危ないから、椅子に座って。」  一脚の椅子に夏央は座らされ、結局、蠍座さんに全て任せてしまう事となった。  蠍座さんは興奮を抑えながら、夏央の片方の足にガーターストッキングを丁寧に履かせていく。その間に数回、夏央の露になったままの股の間に、蠍座さんの荒い息が掛かった。  夏央は羞恥心で、居たたまれなくなる。 ――なんでもいいから、パンツ穿きたい!  ガーターストッキングの太腿周りに、あしらわれたレース部分に、ガーターベルトの金具が全て留め終えられると、やっと夏央は下着を穿かせて貰う事が出来た。  しかし、その下着が、レースがふんだんに盛られたTバックである事に気付くと、夏央は再び羞恥心に囚われてしまった。  そこで漸くドレスが登場する。 「これはオートクチュールでね、なかなかいい値段がするんだよ。」  蠍座さんは、ドレス全体にあしらわれている刺繍レースを自慢した。  ドレスを着せられながら、夏央は人形に徹する努力をする。  白いドレスはノースリーブで、胸元より上はシースルーとなっている。ふわふわのスカート丈は夏央の予想よりも短く、膝よりも少し上だった。  白いハイヒールを履かされ、パールやジルコニアで花が模られたカチューシャを頭に付けられると、やっと蠍座さんに完成だと告げられた。  姿見を持ってこられ、夏央は恐る恐る仕上がりを見る。  館の女中の一人が、好意で切ってくれる夏央の髪は、少年にしては少し長めだ。その所為か、女の子として違和感のない仕上がりとなっていた。  だからと言って、納得できる状況ではない。 ――女の子に着せた方が、絶対いいのに…。  夏央の思いが伝わらないまま、蠍座さんは撮影を再開した。 「無理に笑わなくっていいんだよ。…憂いのある表情が、花嫁さんって感じもするし、…迷い込んできて困ってる妖精さんって感じもするし、すっごくイイ感じだよ!」  予定の時間まで、ひとしきり撮影をすると、蠍座さんは満足したようだった。 「夏央君のフィギュアが、あったら欲しいなぁ…。じゃあ、またね。」  そう言い残して、蠍座さんは帰っていった。

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