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7 お披露目会~二日目~
自室で来客待ちの夏央 のもとへ、絢斗 がやって来た。彼は興味に満ち溢れた目で、早速、質問を繰り出す。
「昨日、蠍座さん、どうだった?」
夏央は答える前に、溜息をひとつ吐いた。
「スーツからの着せ替えで裸にされて、女装…。で、写真をいっぱい撮られた。…下の毛を剃られた時点で、お話するだけじゃないんだなっては、思っていたけど。」
絢斗は思わず目を丸くする。
「毛ぇ、生えてたんだ?」
夏央は少しだけムッとした。
「一応ね。」
「俺は永久脱毛しちゃったよ。ケツ毛とか、もしあったら最悪だろ?髭とかも、一本でも生えたら許されない感じ。」
今度は夏央が目を丸くした。
「…そうなの?」
「エチケットって奴?」
夏央が放心してしまったので、絢斗は話を蠍座さんへ戻すことにした。
「…夏央の後、俺も蠍座さんの相手したんだけど、あの人、コスプレ好きだからさ。俺は猫コスさせられたよ。」
「着ぐるみ?」
そっちの方がいいな、と勝手に羨ましそうにする夏央に、絢斗は速やかに現実を突き付ける。
「いや、ほぼ裸。猫耳のカチューシャして、手袋と、ニーハイタイツ穿いて…それから、尻尾をケツにぶっ刺されて完成。」
「え!?尻尾を…って、もしかしてお尻の穴に…?」
「尻尾の付け根に、イイ感じのプラグが付いててさ…って、これ十八禁だった。…想像しないでくれると有難いなぁ。」
もう遅いと思いつつ、赤面した顔で夏央は頷いた。
「今日は…牡羊座さんだったな。…衣装のリクエストあった?」
絢斗が話を切り換えた。
「うん。中学の制服でって言われた。」
「汐翠 学園の?…へえ、今日は脱がされないといいな。」
「…それね。…少年主体って聞いてたのに、なんか騙された感があるよ。」
夏央が溜息を吐くと、絢斗は苦笑してみせた。
「オジサン達との遣り取りはね、駆け引きなんだよ。…大人はズルいからさ。巧みに誘導されたりして、いつの間にか言う事きかされてるから。…気を付けろよ!」
そうアドバイスを残し、絢斗は部屋を出て行った。
夜、七時半になると、夏央は自身の通う中学の制服を着て、二階の一室へ向かった。
汐翠学園中等部の制服は、詰襟の、ファスナータイプの学ランだ。薄いグレーに濃いグレーの縁取りという、二色遣いのシンプルなデザインとなっている。
――いつも着る制服でお披露目って、なんか嫌だな…。
指定された部屋まで行き、躊躇いながら夏央はノックをする。
「初めまして、夏央君。…期待通りで嬉しいよ。」
夏央を出迎えたのは、黒いアイマスクをした長身で、細身の体付きをしている男だった。
昨日の蠍座さんの派手なアイマスクと違い、彼のものには派手さはなく、黒一色の、少し蝙蝠を思わせるような形をしている。
彼、牡羊座さんを見て、蠍座さんよりは少し若い印象を夏央は受けた。と、いっても、四十はいってそうな感じではある。
部屋に通されると、そこは小さな図書館といった感じで、本棚が列を成して並んでいた。
沢山の蔵書に興味を惹かれた夏央だったが、牡羊座さんに見つめられていると気付くと、途端に気を引き締め直した。
「あの、今日、僕はどうしたら…?」
牡羊座さんが何も言ってくれないので、思わず自分から夏央は訊いてしまった。変な事を要求されるようなら、即、断ろうと身構える。
「読みたい本を探して。」
牡羊座さんからは、ごく普通の指示が返ってきた。夏央はほっとして、本棚の作る通路を歩き出した。古書特有の香りが鼻腔を擽る。
夏央はどちらかというと、本をよく読む方だった。幼い頃から一人でいる事が多かった為、祖母の遺品の蔵書が残っていた頃は、それらを片っ端から読み漁った。
ここにある本も古くて、祖母のものを思い出し、懐かしい気分に浸る。
真剣に本を探す夏央だったが、徐々に近付いて来る気配に、牡羊座さんの事を思い出した。
彼は最初、一メートルほど離れた距離を保ちつつ、夏央に着いて来ていたようだったが、その距離は徐々に狭められてきていた。
やがて牡羊座さんは、夏央の真後ろに立った。手を伸ばされる気配で、夏央は振り返った。
「あの、…何か、するんですか?」
夏央の問に、牡羊座さんは口角を上げると、夏央越しに一冊の本を取り出した。
「この本の著者を…知ってるかな?」
それはケース入りの分厚い書籍で、幾つかあるオスカー・ワイルド全集の一冊だった。
「オスカー・ワイルド…。聞いた事あるような気はします。」
夏央は記憶を辿って、著者の作品を思い出そうとしたが、出て来なかった。
「ワイルドは妻子がありながら、少年も愛したアイルランドの作家だよ。…幸福な王子というタイトルは…聞いた事ない?」
それに聞き覚えがあった夏央は、「ああ」と声を洩らす。
「あります。確か王子の銅像と小鳥の話だったかと…。でも、詳細は忘れてしまいました。」
「正確にはツバメだよ。…その物語だけでいいから、君に読み聞かせて貰おうかな。」
夏央は意外な要望に目を瞬かせたが、ほっとして快諾する。
二人は窓際に置かれた、革張りの長椅子へと移動した。
丁寧な読み聞かせで時間を過ごすと、牡羊座さんは礼を言い、「また、来るよ」と、夏央の耳元に一言囁いて部屋を出ていった。
一人残った夏央は本棚を再び巡り、絵本だけが集められた棚から『幸福な王子』を見つけ出すと、こっそり自室に持ち帰った。
絢斗が待つ、館の二階にある一室へ、長身の黒いアイマスクの男、牡羊座さんが訪れた。
この部屋は寝室といった雰囲気で、部屋の中央にキングサイズのベッドが置かれている。
「今日は早く、絢斗君の裸が見たいな…。」
バスローブ一枚だけを着た絢斗を、牡羊座さんは引き寄せる。
「…他の子で勃起しちゃったモノを、ボクに処理させるつもり?」
先程まで、夏央と過ごしていた事を知っていると仄めかし、絢斗は軽く睨んでみせた。
「違うよ。…君を可愛がりたくて、勃起しているんだよ。」
絢斗は拗ねたようにして俯く。
「それじゃあ、こうしよう。オプション分の追加料金を払うよ。…それで、今日は君を徹底的にイかせてあげよう。」
牡羊座さんの提案に、絢斗は溜息を吐いた。
「オプションはいつもの事でしょう?…どうせ、また変な道具を使うつもりなんだ。」
「嫌かい?」
「…先ずは、キスでしょう?」
絢斗が強請るような上目遣いをすると、牡羊座さんの顔が近付き、絢斗の唇に吸い付くようなキスを始めた。絢斗は受け身の姿勢を崩さないまま、軽く舌を絡め返した。
絢斗の目がとろんとした処で、牡羊座さんは絢斗のバスローブの肩を優しく撫でた。
「先に進んでも…いいかな?」
「…いいですよ。」
絢斗は妖艶に微笑むと、バスローブを床に落として裸体を晒すと、ベッドに俯せになった。
「今日はね…。前立腺マッサージャーを使ってみるけど、問題ないかな?」
絢斗は苦笑気味になりながらも、腰を上げて受け入れ体勢を整える。
「どうぞ。入れて下さい。」
「そんな君が…大好きだよ。」
満足気な牡羊座さんの指が、絢斗の太腿から臀部を伝った。
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