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11 夏央 十五歳

 絢斗(あやと)が話していた通り、客が夏央(なつお)に支払った金を、(えんじゅ)は一円も懐に入れることはせずに夏央へ渡した。  一度、槐にお金を返したい、と進言してみたが、やんわりと却下されてしまった。  それでも夏央は、槐が父親に支払った、推定千五百万以上の金を返さなくてはいけないと思っている。  内に秘めたる決意のもと、夏央は館での仕事を続ける決意をした。  夏央が高等部一年の初夏の頃、絢斗と二人で天秤座さんの相手をする事になった。  絢斗は断りたいと言ったが、夏央が意欲的だった為、それは実現したのだった。 「…絢斗君、怒ってる?」  キングサイズのベッドの上で、二人で天秤座さんを待ちながら、いつもより無口な絢斗を夏央は心配した。 「いや。夏央は…勉強になるって思ったんだろ?でも、あの人、EDだし、期待には応えられないかもな。…まあ、やれるだけやるけど。」  予想と違い、絢斗は前向きな姿勢を見せた。夏央はほっとする。 「…いつも僕の時は添い寝とかなんだけど、絢斗君は違うんだよね?」  バスローブ姿の二人は、まだ天秤座さんの要望を知らない。 「基本、オーラルだよ。舌を使ってね…。結構、疲れるんだ、これが…。」 「…言われたら、僕もやってみようかな?」  夏央が小さく呟くと、絢斗が徐ろに彼を抱き締めた。 「基本的には俺が動くから、…夏央は見たくない事からは、目を逸らしてていいから。」  本当にそれでいいのだろうか、と夏央は自問自答してみる。  早くて、二、三ヶ月で辞めた少年もいるという事なのに、絢斗は最長とも言える年数で、今も頑張ってくれている。そんな彼も現在、大学二年生で、今年の八月の終わりに二十歳となってしまうのだ。 ――早く、僕が一人前にならなければならない。  夏央が絢斗の背に手を回した時、天秤座さんがノックもなく部屋に入って来た。 「おや、仲が良いんだね?…私も混ざっていいかな?」  その瞬間から、絢斗の雰囲気が妖艶なものに変わった。仕事モードに入ったのだろう。夏央は一人、置いて行かれる。 「いいですよ。…いつもみたいに、します?」 「今日は…趣向を変えようかな。」  天秤座さんはガウンを脱ぎ、ベッドに這い上がってくると、何やら考えを巡らせた。 「絢斗君の舌テクを、夏央君に使ってみるのは…どう?」 「ボクが夏央君の初めてになるのは、禁じられてますよ。」  絢斗は即答で、断りに掛かった。 「プライベートで色々するのは禁じられてると思うけど、今ここで、夏央君のフェラチオ初体験の権利を私が購入して、絢斗君に実行させるのは許されるんだよ。…どう、夏央君。経験してみる?」  予想していなかった展開に、夏央が戸惑っていると、絢斗が断れというような目線を送ってきた。しかし夏央は、それに気付かない振りをして頷いてしまった。 「後悔すんなよ…。」  絢斗は夏央の耳元で、極小の声で素早く囁いた。 「私を挟んで、やってくれ。」  天秤座さんのリクエストに応え、投げ出された彼の下半身を真ん中に、膝立ちになった夏央のバスローブを開き、絢斗は舌での奉仕を始めた。  開始数秒で、まだ大人になり切れていない夏央の性器が、目一杯の怒張を見せた。  絢斗の温かい口腔内と、彼の巧みな舌遣いにより、夏央は抗えない性の感覚に支配される。 「絢斗君!…出る、…もう、出ちゃう!」  夏央が無理に絢斗を突き放すと、大量の白い飛沫が、絢斗の顔と天秤座さんの股間に掛かった。  不意に羞恥が夏央を襲う。この場から逃げ出したくなった。 「おい、見てくれ!…私のモノが、勃起している!」  突如、天秤座さんの声が上がる。思わず二人が注視すると、もう何年も勃起不全だったという天秤座さんの性器が、頭を(もた)げていた。 「夏央君!…君の中へ、これを納めてもいいかな!?…こんな事は、もう、ないかも知れない…!だからぁ!!」  天秤座さんに逼迫(ひっぱく)した声で迫られ、夏央は身を竦ませた。途端に恐怖に襲われ、夏央は涙目になる。  「嫌だ」という言葉が頭の中で繰り返されているのに、声にならない。そんな夏央を見兼ねて、絢斗がフォローに入った。 「天秤座さん、ボクじゃダメですか?…夏央は準備して来てないんです。でもボクなら、大丈夫ですよ。」  絢斗はバスローブを脱ぎ捨てると、天秤座さんの上に跨った。そして、夏央が出した飛沫を指に絡め、自身の後孔に擦り込み始める。 「絢斗君…!君は天使だ…!!」  天秤座さんも久々に蘇ったものを丁寧に擦りながら、片手で絢斗の中を確認するように指を忍ばせた。 「夏央君は、少し離れててね…。」  絢斗は呆然としている夏央に距離を取らせると、腰を落として挿入を試みた。しかし硬度が足りなくて、上手くいかない。  「天秤座さんの指、…添えたまま…挿れちゃいますね。」  深い結合が叶えられると、天秤座さんの歓喜を伴う、嬌声に近い声が上がった。 「絢斗君!…あ、ああ…ゆっくりね。…中に…出すのは…許してくれるかい…?」 「…いいですよ。お好きな時に…出して下さい。」  夏央は目が離せず、瞬きも忘れて、絢斗の背後に近い角度から、二人の行為を見守った。  絢斗の尻は丸くて小さく、腰も括れているので、背後からだと少女のようにも見える。七十前後のたるんだ男の上に跨る姿は、醜美の融合と言えた。  天秤座さんが満足して帰って行くと、絢斗は素に戻り、ベッドに俯せに倒れた。そして夏央に自嘲気味に問い掛ける。 「ちょっとエグかったろ…?」 「…絢斗君、凄かった。…中に、出されちゃったの?」  心配というより、興味深げに夏央が近付いてきた。 「出されたって言っても、微々たる量だから。…掻き出す必要もないかな。」 「ちょっと触ってもいい?」 「え?…触るって、おい…!?」  夏央が片手で絢斗の背中を押さえつけ、もう片方の手の人差し指を、濡れた中心部へと潜り込ませた。 「絢斗君だけ、イッてないし…。」 「おい、ダメだって、夏央!触っていいって許可してない…だろ…!」  苦悶の表情を浮かべる絢斗だが、夏央は止めようとしない。 「あ…夏央…、ヤバい…って…。」 「絢斗君の中…気持ちよさそう…。」 「ストップ!」  絢斗は身を捻って上半身を起こし、エスカレートしそうな夏央の行為を止めた。 「…残念だけど、夏央をタチデビューさせる訳にはいかないからな。…俺を困らせないでくれよ。」  夏央は我に返り、素直に謝る。 「うん。…ご免ね、絢斗君。」  絢斗との経験の後、夏央は次第に快楽を追及するようになっていた。  まだキスすら客に許せていない夏央だったが、それなりに毎回、シミュレーションだけは出来ている。  その日も、それなりに客のリクエストに応えられるように、覚悟を決めて挑んでいた。  館の二階の、医務室を模した一室で、病衣を着せられた夏央は、診察台の上に横たえられていた。  客は自身を医者だと公表する牡羊座さんだ。 「病衣の下は…何も着けていないんだね?」  問われると、夏央は無言で頷いた。 「今日は…夏央君の直腸検査をしてもいいかな?」  夏央は再び頷くと、牡羊座さんが横を向くように指示を出した。  夏央の臀部が露にされ、使い捨て(ディスクロージャー)手袋をした牡羊座さんの人差し指が、潤滑剤を擦り込ませる為に、夏央の内部を往復した。  夏央は少しだけピクリとして、反応を見せる。 「器具を入れるからね。」  ひんやりとした感覚を伴い、肛門鏡という金属管が夏央の中に挿入される。その後、内筒だけが引き抜かれ、牡羊座さんがそこをライトで照らした。 「驚いたな…。凄く綺麗にしてるじゃないか。…自分で洗ったの?」 「絢斗君に…やり方は教わりました。」  牡羊座さんは満足気に頷いて、器具を抜いた。 「いい子に育ったものだ。…それじゃあ、次は触診もして、いいかな?」 「どうぞ…。」  了承を得た牡羊座さんは笑みを浮かべると、手袋を外した。そして潤滑剤を指に取り、直に夏央の中へ滑り込ませた。 「この医療用潤滑剤には、麻酔成分も含まれているからね。…痛くないだろう?」 「痛くないです。…でも、感じますよ。」 「そりゃあね。本格的な麻酔とは違うから…。感じるって、どんな風に…?」  牡羊座さんは夏央のいい部分を探り当てる。 「あ…そこ!…よく分からないけど…暫く、それ続けて欲しい…。」  丁寧に時間を掛けて弄られると、夏央の口からは熱い吐息が洩れ、腰が僅かに揺れ出した。 「刺激が足りなくなった?…指を増やしてあげようか?」 「増やして…。そして、中をもっとイジメて…!」 「…いいね、夏央君。…私も一緒に…気持ち良くなっていいかな…?」 「うん…。いい…!」  ファスナーが開けられる音がして、夏央は本番を覚悟した。  しかし指が二本差し込まれてから、抜かれる事はなく、牡羊座さんは自慰をする形を取ったようだった。 「夏央君も、前を擦ってごらん…。」  言われるままに夏央は、先走りを垂らし続けるそれを擦った。 「あ…これ、直ぐ…イッちゃう…。」  夏央が達したのを見た牡羊座さんは、指を抜き、夏央の前に性器を晒した。 「夏央君…!君に掛けてもいい…?」 「…いい…ですよ。顔に掛けて…。」  承諾と共に、男の精が夏央の顔に浴びせられた。夏央は舌を出して、それを味わう。 ――最後までシても、よかったのに…。  夏央の体から性に対する警戒心が、消えかかっていた。 ――次、ロスト…出来るように、客を誘導してみよう…。  そう思う夏央だった。

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