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第12話

 恥ずかしがってばかりいないで、意地を張ってばかりいないで、きちんと素直な気持ちを伝えなければ。それが出来たらたとえ受け入れてもらえなくても、きっと後悔はしないだろう。  クレエにとってそれは一生に一度しかない大事な初恋。  レストはかけがえのない存在なのだ。  ――月灯りが落ちる夜の静まりかえった城内は見張り番の衛兵以外、みな寝ている頃だ。  幼い頃からこっそりと抜け出しては夜の城内を探検していたクレエは、どこに衛兵が配置され、どこを通れば見つからないかよく知っていた。敷地内に建てられた騎士団の寄宿舎までだって簡単にたどり着ける。  黒の外套を羽織り頭からフードを被って音を立てないように早足で歩き、寄宿舎まで着くとその隣に並んで建ててある騎士団隊長専用の家屋の扉の前に立った。  ここはレスト専用の住居だ。隊長に任命されればこの家屋に住まう事が出来る。  レストはもう寝てしまっただろうか。こんな時間に訪ねてきたら驚くかもしれない。明日の朝、出直した方がいいのではないか。そんなことをグルグルと考えてしまい、なかなか扉を叩けない。  いくら仲が良くとも下働きだと思われている、そんな人間にいきなり告白されたらレストは困るだろう。戦場では無敵の騎士団隊長も普段クレエの前では心優しいただの獣人。訓練は厳しく騎士団メンバーには恐れられているが、城に遊びに来た小さな子供たちと一緒になって戯れる姿は狼とは思えないくらい周りを朗らかにさせる。  Ωにも理解を示し、クレエのことも常に気にかけてくれる。  優しすぎる騎士だから、余計に怖くなる。いつかその優しさが仇となって生命を落とす時が来るのではないかと。その時、自分は彼にこの思いを伝えなかったことを後悔し泣くのだ。誰にも知られずに宮殿の奥の自室で、密やかに。  そんなのは嫌だ。自分らしくない。今まで自分の境遇を嘲笑い馬鹿にしてきた奴らにだって負けなかった。自分を利用して権力を手にしようとした腹黒い大人にだって屈服しなかった。何も持たない王子だからこそ、自分のことは自分で守らねばならない。それがΩである自分の原動力だった。

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