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第13話
だから、今。伝えたいと思った時に伝えなければ。それが自分の生き方だから。
「……レスト」
扉を二度叩いて声を掛けた。
心臓が早鐘をうっていてうるさい。指先も緊張で冷たくなってきた。
少し間があって扉が小さく開いた。隙間からレストの銀色の毛が見えた。
「クレエ? 一体どうした?」
鼻をヒクヒクさせながら扉を開ききりレストが中へとクレエを招き入れる。
ドキドキしながら中へ入るとレスト愛用の剣がテーブルに立てかけられているのが見えた。獣人用の大きめのベッドの側には椅子が置かれその上に乱雑に服が重なっている。
隊長専用といっても一人で使うのに丁度いい広さの居間と寝室、浴室があるだけの造りで、誰かを招くには狭い。そこに体格の大きな獣人が住んでいるのだから余計狭く見える。
部屋を見渡してふと居間のテーブルの上に置かれた大きな袋に目がいった。
それは騎士団員が利用している丈夫な袋で、遠征に行く時等に自分の持ち物を入れる為の物だ。普段、城内にいる時には使う必要のない袋は膨らんでおり中に物が入っているのが見てとれた。
「……何処か、行くのか?」
蝋燭の火と、月灯りだけの薄暗い部屋にクレエの声が小さく震えて響いた。
「ああ、東の国境近くの村が盗賊に襲われたらしい。幸い、近くに駐在していた騎士団の連中が事態に気付いて大惨事にはならなかったけどな」
「そんなことが……」
まただ、とクレエは唇を噛んだ。
何か国にとって不利益なことが起きた時、父王や兄は深夜でもその対処にあたり、それの解決に必要な命令を下す。
けれどクレエはそんな事があったのを知らずに朝になってから従者に教えてもらうことが多い。全く知らされずに何ヶ月も経ってから知る事もある。
王子なのに国政に携われないクレエには国の大事な出来事からも遠ざけられている。
それは、知ったところでクレエに出来ることが何もない為、余計な心配をかけたくないという父王の心遣いからくるものだというのは知っている。それでも、何も出来なくとも、後回しにはされたくなかった。
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