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第14話
「盗賊は殆ど捕らえたんだが、まだ逃げている輩がいるらしい。国境が手薄になるのも良くないからな、明日の朝から数日、王命で様子を見に行く事になったんだ」
いつの間に父王はレストに命令を出していたのだろう。昼に会った時は何も言っていなかった。城内もいつもと変わらず静かだし、宮殿も落ち着いていた。父王も一日の執務を終えて自室に戻って来ていたはず。
悔しい、と思った。いつも蚊帳の外で守られてばかりで歯痒い。けれどこれは自分の我が儘だ。もっと王子として役に立ちたいと言えば父王は何かしらの権限をくれるかもしれない。しかしそれをすれば今までΩである自分を守ってきた父王の苦労が台無しになる。
役に立ちたいのならばその方法を自分で考えてからだ。甘えてばかりでは足でまといになるだけだ。
「で、クレエは何か用か?」
ハッとしてクレエは思考を切り替える為に頭を振った。
今日はレストに話があってきたのだから、王子としての自分はひとまず置いておこう。
「盗賊って、危険じゃないのか?」
部屋の中をあちこちと動き回り必要な物をテーブルに集めていたレストがクレエに視線を移した。その目は狼らしいアンバー色で吸い込まれそうなくらい美しく、力強い。その目にじっと見られると心の中まで見透かされてしまいそうで、クレエは少し怖くなった。
「なんだ、心配してくれているのか?」
入り口に立ったままのクレエの前まで戻ってきたレストは笑みを浮かべながらクレエの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「なっ、やめろって! 別に心配とかっ……」
子供扱いされたみたいで頭を撫でるレストの手を退けようとするけれど、大きな手はビクともせず頭を撫で続けた。
「確かに安全とはいいきれないが……」
懸命に手を退けようとしているクレエの顔の高さまで膝を曲げて合わせると、銀色の狼は真っ直ぐにクレエを見て言った。
「オレは誰にも負けない」
その言葉は重く、魂に刻み込まれていつまでも消えない祈りのようで、呪いのようにも思えた。この狼の騎士が戦場で膝をついた時、この国は為す術なく陥落するであろうと悟りクレエは息が苦しくなった。
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