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第15話

「まあ、大丈夫さ。今回は事後処理みたいなもんだ。剣を抜く事すらないかもしれん」  レストの強さは誰もが認めていて、敵う相手はいない。それはわかっている。しかも本人が、誰にも負けないと自分に誓っている。心配する必要は全くない。  けれど、それでも――。 「レストっ……」  気が付いたら思わずレストの厚い胸に抱きついて顔を埋めていた。柔らかい銀の毛の感触がくすぐったい。 「ど、どうした?」  突然のことに慌てるレストはどうしたらいいかわからず困惑して耳をピクピクと動かした。 「無事に帰って来たら……オレの項を噛んでほしいっ……!!」  それは番になってほしいという意味。言葉で素直な気持ちを伝える方法が見つからなくて、一番わかりやすい言葉を口にした。 「……それって……つまり、番に?」  驚くレストの背中に腕をグッと回してクレエは何度も胸の中で頷いた。 「番になるかって言ってただろ!? やっぱり冗談だったのか!? オレといると楽しいって……気が休まるって……」  我ながらカッコ悪いと思い、クレエは真っ赤になった顔を見られまいとさらに強くレストの胸に顔をつけた。  もっと素直に、もっと簡単な言葉で思いを伝える方法はあるはずなのに、本人を前にすると照れて素直になれない。  本当は、ただ「好き」だと伝えたいだけなのに。 「……冗談なんか言ってない」  少しの間のあと、ため息混じりに言ったレストの手がクレエの髪を撫で梳いたあと、柔らかく身体を包むようにしてクレエを抱きしめた。  優しいのに力強い逞しい腕に包まれて心臓は壊れたようにドキドキと早鐘をうち、身体は熱く火照っていく。  この美しく勇猛果敢で情の深い銀の狼が堪らなく好きだ。心の奥底から、身体の内側から、とめどなく好きという感情が溢れてくる。  それは種族も越えて、性別も関係なく、ただ目の前のレストという存在にだけ真っ直ぐに向かっている。

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