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第16話
「もっとちゃんと、いずれオレからちゃんと言うつもりだった。けれど断られたらと思うと冗談まじりにしか言えずにいた」
強く抱きしめていた腕の力が弱まり、レストは真面目な表情でクレエの頬に触れて直視した。
「初めて会った時は生意気な子供だと思っていたのにな……いつの間にかその無邪気さや必死に挑んでくる姿を可愛いと感じるようになった。時折見せる哀しそうな横顔もどうにかしてやりたいと思ってしまう。誰か他の番を見つけたらどうしようと胸が痛くなる。こんなふうに思うのは、クレエ、お前だけだ」
レストの視線を逸らすことが出来ないまま、クレエはその思いをゆっくりと頭の中で反芻した。一度にたくさんの気持ちを伝えられて処理が追いつかない。それでも理解出来たのは、レストが自分に特別な感情を抱いているということ。
「オレの番になってくれるか?」
頬に触れた手が熱い。レストの体温なのか、それとも自分の顔が熱いのか。
「……なる……」
嬉しさと気恥しさ、胸を締め付ける恋しさでそう一言、小さく返事をするのがやっとだった。
レストはその返事を聞いてホッとした表情になり、その後、とても嬉しそうな笑顔を見せた。
「クレエ、帰るまでの約束をくれないか」
「約束って?」
「いない間に気が変わらないという約束を」
急に不安げに耳を折るレストに「バカだな」と笑いながら言って、その頬にある傷を中心に優しく撫でた。柔らかい感触にもっとたくさん触れたいという願望が湧いてくる。
「約束の証しを……」
大きな手が後頭部に回り、レストの顔がゆっくりと近付いてくる。綺麗な狼の顔に見惚れていたクレエは目を閉じることも忘れて約束の証しの口付けを受け入れようとした。
――が、唇よりさきにお互いの鼻先がツン、とぶつかってしまい間抜けな顔で数秒、見つめあっていた。
やがて、どちらからともなく笑いが込み上げてきて何度も鼻先を擦り合わせて戯れると自然と顔を傾けたレストの舌がクレエの唇をそっと舐めた。
まるで食むように何度も舌を出して口を大きく開き、クレエの唇を舐めては甘く噛む。初めての口付けの甘さに思考が溶けそうになりながら、クレエも狼の舌よりも短い自らの舌を出して応える。
「んっ……」
どんなに大きく開いてもレストの口に貪られ喰らいつかれ呼吸も上手く出来ず、段々とクラクラしてくる。
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