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その日は朝から喉が痛かった。 六月の末。蒸し暑くなって来る時期だというのに、ここ数日は喉の調子が悪くて毎日マスクを付けている。 ウィルス99パーセントカットのフィルター越しでないと空気もろくに吸えないのかと自分の気管支が情けなくなるけど、出席日数のことを考えるとそう簡単に風邪を引くわけにはいかない。 俺は風邪を引きやすい上に一度引くと拗らせがちで、小五の時なんかクラスで流行ってたただの風邪を拗らせて肺炎を起こしかけ、入院する羽目になったことさえあるのだ。あの時は本当に息をするだけで苦しすぎて死ぬんじゃないかと思った。 その頃の名残で今も季節の変わり目になるとどこかしら体調は崩すものの、あの頃に比べたらずっとマシになっていると思う。とはいえまだ人並みには程遠く、今後も人より弱い体とうまく付き合って行くしかなかった。 そんなふうに少し油断するとたちまち上手く回らなくなるような体だというのに、祐一郎の奴はお構いなしだ。いつものペースでまたいつもの誘いが来て、ラーメンが食べたいから明日の夜食いに行こうと言う。 その誘いに仕方なくOKを出したのは、体調が悪いと言えば無理強いはされないだろうけど、熱はないのか薬は飲んだか病院には行ったかって、母さんよりうるさいからだ。このくらいでいちいち病院に行って薬を貰ってたらうちは破産する。 返事はいつもの同じスタンプで、無表情のアリクイが《ハイハイ》ってボヤいてるやつだった。「俺は決して喜んでお前の誘いに乗ってるわけじゃないから」という無言のメッセージを込めてるつもり。この無表情アリクイシリーズはどれもこれもアリクイが不満そうにしてて、祐一郎相手にはかなり使える。

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