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第3話
「さて……」
黒い羽織を脱ぎ落して、社の主が司の傍らに腰を下ろした。
反射的に逃げようとしたが、体は脱力して指一本動かせない。怯えたように辺りに目を走らせる司を、山神は笑みを浮かべて見下ろした。
「怯えずともよい。稚き胎を目覚めさせてやるのも我の冥利よ。すぐに極楽を教えてやる」
「待って、ください……!」
山神の手に帯を解かれるのを感じて、司は慌てて声を上げた。
「俺は東雲の宮司に言われて刀を納めに来ただけです。このまま村に帰してください、お願いします」
人智を超えたものと相対する怖ろしさを堪えて、必死に言い募った。
山神は怒りもせず微かに笑っただけだったが、手を止めようとはしなかった。帯が引き抜かれ、単の袷が開かれる。
「東雲から何も聞いておらぬのか。刀は人の子が神に嫁ぐための嫁入り道具だ。自ら打った刀を握り、輿に担がれて山を昇ってきたのだろう。つまり、其方は我がもとに輿入れした嫁御寮ということだ」
単の前が開かれて、司の裸体が露わになった。
鍛冶仕事で程よく引き締まった体は、とても女体に見えるはずもない。だが山神は斟酌する様子もなく局所を隠す下帯にも手をかけた。
「かねてからの約定通り、其方は此処に輿入れした。役目を果たすまで帰すわけにはいかぬ」
「役目……?」
刀をここまで納めに来ることが役目ではなかったのか。司は呆然として呟いた。
厳しい表情で見送った父の姿が脳裏に浮かんだ。無理を通して山への参拝に同行し、最後まで二の鳥居の前から離れようとしなかった弟の姿も。
おそらくあの二人は知っていたのだ。この役割が、社に刀を納めて帰るばかりでないことを。
「無粋な話はここまでだ。初夜の床を愉しませてもらうぞ」
断固とした声で山神が告げた。
身を隠すものを失った司の下肢が、膝を立てて大きく左右に開かれる。何もかもを曝け出す姿を取らされて、司は畏れも忘れて叫んでいた。
「冗談はやめてくれ! 俺は女じゃない!」
「いいや」
切れ長の金色の目を細めて、山神が微笑う。
「其方は我のためのおなごだ。今からそれをわからせてやろう」
「……ッ」
秀麗な貌が近づいてきたと思った次の瞬間、司の口は山神に塞がれていた。長い舌がぬるりと入り込んでくる。
思わずそれに噛みつこうとしたが、顎を指で軽く押さえられて口を閉じることが出来ない。犬が水を飲むときのように、長い舌が司の口の中を何度も出入りした。
「ん……、ッ……」
人間にはあり得ぬ長い舌は、上顎を擦り、舌の上を撫で、頬の内側を擽っていく。
触れ合った口内に山神の体液を感じた途端、司は臍の奥にズンと圧し掛かる重い熱を感じた。
「……ぁ……ぁ……!?」
下腹が重い。内側から押されるような圧迫感と同時に、むずむずするようなもどかしい感覚が広がっていく。
それが一種の快感だと分かって困惑の声を上げた司の口を、山神が吸った。
唇を吸い、舌が歯列を彷徨う。追い返そうと突き出した舌が絡め取られ、緩く吸われる。鼻で息をするうちにだんだん頭がぼんやりしてきて、気が付いた時には、司は山神の唇を自ら求めて吸っていた。
覆い被さる山神の身体からは香木にも似た何とも言えぬ匂いがした。雄の匂いだ。尖った犬歯の先に舌を纏わせながら、司は本能的にそう悟った。口を塞がれて山神の匂いを嗅ぐうちに、司の身体はどんどん熱を上げていく。
熱は下腹の奥の方、膀胱に近い場所から疼くように湧き起こり、指の先まで満たしていく。全身が敏感になり、下腹が硬く姿を変え始めた。匂いに中てられて欲情しているのだ。
「は、ぁ……あ、あぁ…………」
胸元に手を這わされて、切ない泣き声が司の口から漏れた。粟立った肌に直接触れられると、震えが走るほど心地よくて居ても立っても居られない。もっと触ってほしくて身を擦り付けたくなる。けれど指一本動かすことが出来なくて、司は甘えるような声を上げた。
「気持ちいい……もっと、触って……」
穏やかな手つきで肌を撫でられているだけなのに、全身が跳ね上がりそうなほど気持ちいい。だが実際には力の入らぬ体は床の上に静かに横たわったまま、一方的な愛撫に身を晒しているだけだ。
胸の上では二つの乳首が張り詰め、僅かな空気の流れを感じるだけで痺れるような快感を覚えた。そこを指で撫でられて、司は引き攣るような声を上げる。下腹がますます熱い。
「甘く芳しい匂いがし始めたな。どれ、やっと盛りがついてきたか……?」
「あ、あ……なに……!?」
すん、と鼻を鳴らした後、山神が大きな掌で恥骨の直ぐ上を押した。
押されると腰の後ろまで鋭い快感が走って、司は困惑混じりの喘ぎを漏らした。下腹を押さえたまま小刻みに揺らされると、失禁しそうなほどの快感に襲われる。怯えを孕んだ高い嬌声が迸った。
「!……や、だぁ……ッ、やめて、そこ…………ッ!」
グリグリと押さえられると射精を迎える瞬間にも似た喜悦が走る。山神の手の甲を、反り返った司の牡が叩いた。
先走りの汁があたりに生温かく散っていく。屹立には触れられても居ないというのに、下腹を押されただけで波のような射精感が何度も繰り返し襲ってきた。その快感の強さに司は怯えたように啜り泣いた。
「イッ、ちゃう……ッ、もうイッちゃう、よぉ……ん、んッ」
「気をやって、中をしっかり濡らしておけ。その方が其方のためだ」
山神の深い声が耳朶を擽る。まるで幼い獣の仔のように司は唇を求めた。
この強い雄に服従し、守られたい。山神はそれに応えて、安心させるように司の唇を啄んだ。
「ふぅ、……ッう……ッ」
喘ぎを唇に吸い取られながら、司は絶頂の波に翻弄される。
山神の大きな掌の下に官能の源があった。そこを力強く規則的に押されると、甘い疼きが波のように湧き起こり、背骨を駆け抜けて頭の芯まで蕩かしてしまう。腹の奥で熱い何かが滲みだして、後孔から外に溢れそうになっていることも感じ取れた。
「……あぁ……出る……出ちゃう…………ッ」
鼻声を漏らして訴えると、山神が慈しむように頬に口づけてくれた。触れ合う肌の温もりを与えられて、怖れと快楽に泣きながらも司の心は急速に傾いていく。
誰かにこんな風に優しくしてもらうのは何年ぶりだろう。東雲の家では誰も彼もが腫れ物に触るように接し、匂いを嗅ぐのも嫌だと言いたげに、決して近寄ってこようとはしなかった。
司は離れの自分の部屋で、いつも冷たい父の顔を思い浮かべながら屹立を慰めた。時にそれは思春期を迎えて大人びてきた弟の和泉のこともあった。閉鎖的な村の中で誰とも肌を合わせることなく、家業を通して家族と認められるのを唯一の拠り所にして生きていくのだと思っていたのに。
「……あ、あぁ……ッ、ァア――――ッ!……ッ!」
屹立が跳ねて山神の手を叩く。
尾を引く高い叫びとともに、司は激しい放埓を迎えていた。
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