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第4話
放埓の余韻は長く続いた。
司は収まらぬ息を荒く繰り返しながら、下腹の奥で燻り続ける快楽を恍惚としながら味わった。射精したと思ったのに特有の匂いがしない。その代わりに何か別の、甘たるいような芳香が立っているのがわかった。
「胎を押されると心地良かろう……?」
司を安心させるように山神が言った。頷くことのできない司は、瞬きすることでそれに応えた。
結局男の部分には一度も触られていない。下腹を力強く押されただけなのに、屹立を慰めるよりも深くて大きな快感が押し寄せてきて、司の身も心も蕩かしてしまった。
快感に潤みを帯びた司の目を、山神の鋭い金の目が見つめた。
「其方は『長 』とまぐわうことのできる『孕 み胎 』を持って居る。この腹の奥には、長を受け入れるためのおなごの場所がちゃんと用意されておるのだ」
「あっ、あっ……」
もう一度下腹を押さえられて、司は小さな善がり声を上げた。二十七年間、普通の男として生きてきて、まさか自分の腹の中にそんな場所が隠されているとは思いもしなかった。
だがそう言われてみれば、貴之や和泉を思って手で慰めた時、官能は腹の奥から湧き起こっていた気がする。今まで気付かなかったが、『孕み胎』と言われる特殊な性を持っていたからだったのか。
「数十年に一度しか生まれて来ぬ、貴重な性だ。生まれたその日に長に嫁すことは決まっておった。……なかなか盛りを迎えたと聞かぬので待ちわびたが、これ以上は待てぬ。我がその胎を目覚めさせてやろう」
山神が自らの帯を解いて着物の袷を開いた。中から現れたのは、均整の取れた逞しい体だった。
野山を駆け巡る獣のような、無駄のない筋肉に覆われた胸と引き締まった腹部。そしてその下腹の下方には、ふさふさとした下生えに飾られた長大な逸物が、野性の本能を剥き出しにして反り返っていた。
「あ……」
それをどこに収めるのかに思い至って、司は喉を引きつらせた。
大人の手でも一握りできるかという太い幹だ。その上、槍のように長い。あんなものが自分の中に収まるとは到底思えなかった。
「待って!……待ってください、そんなの無理だ……!」
放埓の余韻も吹き飛んだ。冷水を浴びせられて夢から醒めたように、すっかり怯え立って司は叫んだ。
「入らないから!……そんな大きいの、絶対入らない!」
逃げようとしたが、飲まされた薬のせいで体は全く自由にならない。いや、これを見越していたからこそ、薬を盛られて体の自由を奪われていたのだ。
「――嫌だ!……裂けるッ、絶対裂ける……ッ」
「騒ぐな。孕み胎がそれほど柔なはずがあるものか」
喚きたてる司を一喝して、山神は力の抜けた両脚を肩に抱え上げた。浮いて無防備にさらされた窄まりに、司が目にした逸物の先端が宛がわれた。
「……い、やだ……ッ」
恐怖に竦み上がっているのに、首を振って拒絶することさえ出来ない。司の懇願に構いもせず、怒張の先端は司の窄まりを抉じ開けた。そのままグッと体重をかけて押し広げられる。
「……ぁ、あ……ッ……」
硬く逞しい牡が潜り込んでくる。腹に力を込めて押し出したくとも、どこにも力が入らない。後孔を限界いっぱいまで拡げられる感覚に司は喘ぎ、絶え絶えの息を繰り返した。
山神の肉棒はゆっくりと司を犯していく。自らを普通の男だと思っていた司を打ちのめすように、人ならぬ巨大な性器が誰にも触れさせたことのない場所を侵略していく。司の身体はただそれを受け止めることしかできない。自分の身体がどんどん拡げられ、苦しいほどの質量を押し込まれても一切の抵抗ができないのだ。
増していくばかりの圧迫感に、もうこれ以上は無理だと弱音を吐こうとした時、――司の喉から意図せぬ甘い悲鳴が零れ出た。
「……ァンンンッ!」
動かぬはずの体が、ビクンと跳ね上がった。腹の中から湧き上がった激しい官能が一瞬で全身に広がっていく。一体何が起こったのかわからずに、司は目を見開いて圧し掛かる山神を見上げた。
「極楽を味合わせてやると言うたであろう」
「あっ、ぁあんッ!」
肉棒の先端で腹の中を探られて、司の口から自分の物とも思えぬ甘い声が零れ出た。
いっぱいまで拡げられた後孔ははち切れそうで苦しいのに、山神の先端にヌルヌルと擦られる内側の壁からは痺れるほどの快感が湧き起こる。快楽の強さを表すように、腹の上に横たわる司の屹立からは透明な蜜がトロトロと溢れ出した。
山神はそれを眼下に収めながら、浅く埋めた肉棒で快楽を生み出す肉壁を苛む。
「ここをこうされると、堪らぬ心地になるであろう。ここがおなごの入り口だ」
「あっ……あっ……だめ、ッ……だめぇッ……!」
トン、トン、と軽く叩かれるだけで、腰から下腹にかけて電流にも似た愉悦がビリビリと響いた。さっき下腹を押された時と同じ快感で、それを内側から直接刺激されるような感じだ。
垂れ流す蜜で腹の上はてらてらと濡れ光り、その滴が肌を伝い落ちる感触にまた追い立てられる。ひっきりなしの嬌声を上げて、司は昇りつめた。気持ちよすぎて頭がおかしくなってしまいそうだ。
「ここが好いことは、ようわかったな?」
浅く埋めた怒張でそこばかり苛みながら、冷静さを失いもせぬ山神が司に言い聞かせる。返事の代わりに啜り泣きを漏らした司の下腹を、大きな掌が上から押さえた。司は見なかったが、山神の秀麗な貌が厳しさを増した。
「――痛いのは、おぼこを破られる初めだけだ。耐えよ」
言葉の意味を噛み締める暇もなかった。体の内と外から掛けられる圧が増した。鋭い痛みが腹の中に生じる。
「ア……ッ!」
逃げ場を与えぬよう上から腹を押さえながら、司の体内に埋めた凶器が肉壁を抉るように突き上げた。長の肉棒を収めるべき入り口があるとの確信をもって、山神の牡が肉の袷を引き裂いた。
「……ッ、ギ……ィッ!……ッ!」
悲鳴にも呻きにもならぬ声が、食いしばった司の歯の間から漏れた。
まだ熟れもせず口を噤んだままの女の壺を、山神の猛々しい牡が突き破って抉じ開けていく。余りの苦痛に体が跳ねたが、山神はびくともせずに司の身体を抑え込み、金色の目を僅かに細めただけで、容赦なく凶器を捻じ込んだ。
声も出せずに苦悶する司の身体をさらに引き寄せて、猛る先端はついに女陰を征服した。
「……ッ……ハ、ッ……」
目を見開いたまま、浅い息を吐いて震える司を、圧し掛かった山神が緩く抱きしめた。
宥めるように頬を撫で、よくぞ耐えたと優しい声で司を労う。見開いたままの司の眦から涙が伝い落ちた。
「おなごの場所に我が入っておる。わかるか……?」
静かに囁かれた声に、司は声もなく『わかる……』と答えた。
後孔からさほど深くない場所に、おなごの場所への入り口が眠っていた。そこはまだ未熟で、長の牡を迎えるために口を開こうとはしていなかった。その処女地を、山神の牡が荒々しくも抉じ開け、女にしたのだ。
下腹の奥に、山神の牡が埋まっているのを感じる。入り口を軽く擦られただけで絶頂へと昇りつめた場所だ。その敏感な内部に逞しい牡が頭を潜らせ、時折中で跳ねるように小刻みに揺れていた。肉壺を犯された司は痺れるような喜悦を得ていたが、牡を咥えこまれた山神も快楽を覚えているのだ。
「まだ痛むか……?」
欲望を押し殺した低い声で、山神が問うた。
山神の金色の目が鋭い光を放っているのは、獲物を喰らいたいという欲望の表れだ。それでも動かずにじっとしてくれているのは、司の苦痛が少しでも和らぐようにと気遣ってくれているからに違いなかった。
そのことに気付いた途端、腹の奥が酷く疼いた。長の肉棒を収めた場所が司の意志に関係なく蠢き始める。山神が短く息を詰め、玲瓏な美貌を歪めた。
「……気持ち、いぃ……」
泣き出しそうな声で司は山神に訴えた。もう黙っていることはできなかった。そこを犯されるのが気持ちいい。山神の逞しい牡で破瓜されて無理矢理女にされて悦びを感じている。ここを突いてもらったら、きっともっと気持ちよくなる。女としての至福を教えて欲しい。
「おなごの場所、気持ちいい……ッ、動い、て……もっと、して……ぇ」
「つか、さ……ッ」
山神が初めて司の名を呼んだ。
噛みつくように口づけし、長い舌で司の口腔を犯す。上の口を塞ぎながら、山神は体を揺らして司の下の口をも責め始めた。
「……ゥ、フゥッ!……ゥウウッ!……」
喜悦の波が司の下腹を支配する。
両手で山神に縋りつけないのがもどかしい。今まで味わったこともない大きな波に攫われて、司は涙を流しながら喘いだ。
臍から下が蕩けてぐずぐずに砕けてしまいそうだった。
下の方でくちゅくちゅといやらしい水音が立っているのは、司の女の場所が悦びの液を溢れさせているからだろう。腹の上でヒクつく司の分身は、雄であることを放棄してすっかり萎え、透明な蜜を零し続けている。
達しても達しても際限もなく昇りつめて失墜し、また駆け上っていく。女の場所から湧き上がる法悦に終わりはない。
「……ッ、ぁああああッ!……イク、イクよぉッ……ま、たッ、イクぅうう――ッ……!」
唇が離れた途端、司の口からはひっきりなしの善がり声が溢れ出した。動かぬ体を断続的に震わせながら、絶頂への階を昇り続ける。
山神の律動は緩やかで、新床の妻を苦しめぬようにと自制してくれているのが伝わってきた。だが、雄としての性がいつまでも相手を気遣って手加減できるような代物でないことは司も知っている。それだけに、いざその箍が外れて自制を失った時、どれほど激しく責められるかと思うと、怖ろしくて泣きが入った。
「もう、もうだめ……ぁっ、ああっ、苦しい……お腹が、壊れる、ぅッ……ッ」
今でもこんなに気持ちいいのに、これ以上激しくされたら死んでしまう。子どものようにしゃくりあげながら途切れ途切れに訴える司に、山神は自身を浅く収めたまま動きを止めた。
不規則に痙攣しながら荒い息を繰り返す司を、表情に乏しい山神の目が見下ろした。
暫くの沈黙の後、諦めるような溜息を一つ零して、山神は汗と涙で汚れた頬を大きな掌で拭った。
「……あまり酷い目に遭わせて、二度としたくないと言われては敵わぬ。やっと迎えた嫁御なのだからな」
溜息とともに吐き出された言葉は優しかった。その言葉とともに、勢いを失わぬままの猛った肉棒は、未練を残さず司の体内から抜けて行った。
体に残る熱を着物の奥に隠し、山神は脱ぎ落した黒い羽織を司の身体の上にかけてくれた。自身は終わりを迎えなかったのに、初夜の務めに苦しんだ司を解放してくれたのだ。
「其方に盛りが来たら、その時こそ胎の奥まで我のものだ」
目の下に一つ口づけを落として、山神は部屋を去っていく。長く豊かに背を覆った黒髪が、まるで鬣のようだ。
その後姿を見送って目を閉じると、司は昏倒するように眠りに就いた。
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