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第6話
祭りの夜と同じように、遠く離れた場所から楽の音が届く。
白い寝間着の上に山神の羽織を身に着けた司は、下腹の熱から気を逸らすために細く聞こえる笛の音を耳で追った。笛は哀し気な響きを帯びていたかと思うと、急に高まり激しく吹き鳴らされる。まるで人の悲鳴のようだと感じたところで、司は合奏の意味に気づいた。ここは山犬たちの棲み処で、彼らは耳が良い。閨の営みで発される声を掻き消すために、楽の音が必要なのだ。
そう考えてみれば、山神から与えられたこの羽織にも意味があるのだろう。艶やかな黒地に金糸で紋が入ったこの羽織からは、山神の匂いが微かに嗅ぎ取れる。司の鼻に判るのだから、山犬たちの鼻には言わずもがなだ。側仕えの花菱が、羽織を着た司が近寄ると落ち着かない様子で耳を伏せるのも、きっと山神の匂いに怖れを覚えるからだろう。『此れは我が物』とマーキングを施されていたのだ。
――所有の徴……。
下腹がずくりと疼いて、司はそこに手をやった。
この社に来るまでは、父や弟に微かな欲情を覚えはしても、誰かと肌を合わせることなど考えもしなかった。けれど今は、自分が山神の所有物であることを強く感じる。
悠然とした立ち居振る舞いの中に、時折荒々しい野性を感じさせる山の狗神。鋭い金の目と射干玉の髪を持つその怜悧な貌を初めて目にした瞬間から、司は自分の中の本能的な何かが音を立てて山神に向かっていくのを感じていた。
生まれた日にこうなることは決まっていたと、山神は言ったが、まさに山神は司にとって運命の相手なのかもしれない。
「は……ぁ……」
渦巻く熱を逃がすように、司は熱っぽい溜息を吐いた。
肉体が熱い。昼間に山神の精を浴びたことで下腹を侵す熱は一層高まり、夜が待ち遠しくて堪らなかった。発情していると言われたが、もうその言葉を疑う余地はない。後孔の中は滴る発情の蜜で溢れかえり、閉じた肉の隙間からちょろちょろと滲み出している。ここに指を入れて慰めたい誘惑に駆られるが、指では到底満足を得られないことは昼に思い知った。山神の牡をここに入れてもらう以外ないのだ。
「お社様……はや、く……」
もうとっくに日は落ちた。花菱も寝所の用意を整えて早々に下がっている。いつになったら来てくれるのかと呟いた時、御簾が持ち上がった。
「そんな声で誘うな。加減を忘れる」
苦笑いとともに、山神が長身を屈めて入ってきた。
今夜は闇に叢雲を浮かび上がらせた黒の着物と、黒の羽織を纏っている。肩からは豊かな黒髪が艶やかに流れ落ち、白く冴え冴えとした面に金色の双眸が鋭い光を湛えていた。
姿を見ただけで堪らない気持ちになって立ち上がりかけた司を、大股に近寄った山神の腕が捕らえた。
「体が熱いんだ……もう待てない……!」
伸び上がって口に吸い付く司をいなして、山神が床の上に押し倒す。倒れ込みながら唇を合わせて互いの匂いを嗅ぎ合った後、掠れ声を発したのは山神だった。
「……我は其方を二十年待った。これ以上待てぬのは我の方だ」
黒い羽織を脱いで、司の寝間着の帯を抜く。待てぬと言いながらも、山神の手は壊れ物に触れるように慎重だ。体の線に沿って掌を這わせ、敏感になった肌が愛撫を受け入れていることを確かめる。
司は両手で山神の首にしがみつき、飢えたように唇を吸いながら、両足を開いて山神を誘った。そこに山神の大きな手が伸びる。
「……んぅうッ!」
窄まりを軽く撫でられて、司は喉の奥で呻いた。中から溢れた体液で山神の指が滑りを帯びた。
濡れたその指は蟻の門渡りを遡り、袋の中身を柔く転がした後、硬く勃ち上がっている司の牡を握り込んだ。軽い締め付けを与えながら、濡れた手がゆるゆると屹立を前後する。
「……お、やしろ、さま……ッ」
腰が手の動きに合わせて淫らに揺れるのを感じて、司は詰るように山神を呼んだ。本当に触れて欲しいのはそこではないと知っているくせに、わざと司を焦らすからだ。唇を離した山神は低く笑った。
「望みがあるなら、言うが良い」
司が何を望んでいるかなど承知の上で、山神はそれを司の口から言わせようというのだ。羞恥で目元がカッと熱くなった。
唇を震わせて逡巡するのを、山神は明らかに愉しんでいる。そればかりか、迷う司を煽るように頬に口づけ、色づいた耳朶を軽く噛み、鎖骨に吸い付いて跡を残す。唇はさらに胸元を下りていき、プクリと膨れて愛撫を待つ肉粒を挟み込んだ。
「……ぁあ、んぅ……ッ」
乳首から生じた鋭い官能に、司は腰を悶えさせた。山神の薄い舌にそっと舐められると、痺れるような甘い快感が下腹を直撃する。尻の奥がじゅんじゅんと熱くなって、発情の徴が溢れてきた。その蜜は呼吸のたびに小さく口を開く後孔からトロトロと零れ出て、寝所の中を甘たるいような匂いで満たした。
「もう、抱いて……」
縋りついた着物の襟を握りしめて、司はついに泣き声を上げた。
もう我慢も限界だ。昼間からずっと待っていたのに、これ以上焦らされるのは耐えられない。恥ずかしさに顔を真っ赤に染めながら、司は望みを口にした。
「……胎に、種を収めてください……お社様の御種を、俺の中のおなごにつけてください……!」
縋りついた司を山神は受け止める。
「良う言えた。其方の望みの通りにしてやろう」
自分から種を強請った司を、山神は愛おしむように一度強く抱きしめた。
用意されていた大振りの枕を腹の下に入れられて、司は尻を高々と突き出した高這いの姿勢を取らされた。
袖を通しただけの寝間着を捲り上げられ、背後から腰を掴まれて、犬の交尾の姿勢だと気が付く。人に似た美しい姿を持っているが、この山の神は狗神なのだ。
自らも獣になったような気がして頬を染めた司の窄まりに、山神の硬いものが宛がわれ、そのままゆっくりと中に押し込まれてくる。
「……ああぁ……」
昼間口に咥えたあの太くて長い怒張だ。丸みを帯びた先端に、太い幹の部分が続く。
人間のそれと違って、山神の性器は根元に行くほど逞しさを増す。後孔に引き攣れる痛みを感じて、司は今更ながらに、初夜の営みが十分な配慮をされたものだったことに気付いた。事前に飲まされた酒は、牡を受け入れる際の苦痛を和らげるためのものだった。引き裂かれる恐怖に泣き叫んだが、終わってみれば痛みもなく傷もついてはいなかった。
「あ……あ、あ……あ……ッ」
痛みに強張りそうになるのを、息を吐いてやりすごす。酒がない代わりに中から溢れ出る蜜の滑りに援けられて、山神の先端が中の女陰に辿り着いた。
「あ、ああぁッ……!」
快感の強い唇の部分を擦られて、司の腰が跳ね上がる。肉の袷から蜜が溢れるのがわかった。
山神の牡がその中へと侵入する。肉壺の縁を押し広げて、ゆっくりと奥へ……。
「んぁああ――ッ……あ、あんんん――ッ!」
蜜に濡れた襞の中を太い異物が進んでくる。後孔を拡げられる痛みさえ吹き飛ぶほどの喜悦に、司は喉を開いて思い切り叫んだ。腹の中で悦びが何度も弾けて、全身に散っていく。中で味わう女の法悦はまるで炎のように全身を舐め、司の脳髄を蕩かした。
あまりに善すぎてどうにかなってしまいそうで、嬌声を上げながら前に逃げようとする。だが、腹の下に入れられた枕がそれを阻み、腰を掴んだ山神の手が後ろに引き寄せる。
「……もっと奥まで征くぞ……!」
押し殺した山神の声が聞こえた。途端、司は絶頂の叫びを迸らせていた。
いっぱいまで入ったはずの牡が、なおも奥まで進んでくる。奥まで、もっと奥まで。
初めての時にはこれほど奥までは来なかった。盛りを迎えておらぬからと、ごく浅い場所に留めてくれていたのだ。槍にも似た長大な逸物を思い出して、司は背筋を震わせた。あれが全部入ったら、腹が突き破られる……!
だがその恐怖さえも、胎の内から湧き起こる快楽には及ばなかった。長の肉棒を収めるための蜜壺に、まさにその待ち望んだ怒張が収まりつつあった。根元まで突き入れられて肌と肌が密着した瞬間、司の箍は弾け飛んだ。
「……ぁあああ――ッ!……ああぁ、いぃ、いひぃいいぃ――――ッ!」
「……つ、さか……ッ」
蜜壺の最奥にまで牡が届いて、司は狂ったように叫びながら尻を振り始めた。ここだ、ここに長の種を収めるために胎がある。このためだけに胎があるのだ。
ジュブジュブとあられもない水音が立ち、足の間が濡れていく。後孔は文字通り裂けそうなほど拡張されているのに、その極太の圧迫感が堪らなくいい。色に狂う牝犬のように尻を振って、悦びの咆哮を上げずにはいられなかった。
「いぐぅ――――ッ! いぐ、いぐいぐ……ッ、いくぅぅう――ぅう――ッ!」
連続して襲ってくる絶頂に全身を痙攣させながら、叫んで叫んでイキ続ける。背後の山神の息が荒くなり、腰を掴む手が力を増した。律動が高まり、奥を抉られる動きがどんどん激しくなっていく。もう終わりが近い。
「出す、ぞ……ッ!」
「……ああぁ――――……ッ……」
一声告げて、山神の体が司の上に覆い被さってきた。胎の中で山神の牡が弾け、熱い奔流が吐き出される。後ろからガッチリと羽交い絞めにされた司は、どんどん重みを増していく下腹の苦しさに呻いた。
――あの、精液が……。
司は昼間顔に向かって放たれた、凄まじい量の吐精を思い出した。あれだけの量が腹の中に放たれているのだ。考えただけで腹の苦しさが増した気がした。
蜜壺の奥に吐き出された大量の奔流は周囲の内臓を押し広げる。それだけではない。拡張されて痺れた後孔の内側で、何かがどんどん質量を増していった。感じやすい女陰の唇を圧し潰すように、巨大な瘤が中で膨れ上がっていく。
「……あ……ぁッ……!」
根瘤だ。射精と同時に竿の半ばにある瘤が膨れ上がり、種が吐き出されるのを封じているのだ。
「や、やぁッ、抜い、てぇ……ッ!」
なおも重みを増し続ける下腹の苦しさに、司は解放してくれるように懇願した。
下腹がポッコリと膨らんで、僅かに残っていた膀胱の中身まで、押し出されて枕の中に染み通っている。それでもまだ山神の吐精は続いていた。
「……根瘤が収まるまでは……無理だ……」
司を背後から拘束する山神は、満足しきったように眠たげな声で囁いた。
「半刻ほどだ……その間、逝き続けておればよい……」
「……いや、いやだ、ぁあああっ……あひぃい、もう、もうゆるし、あひぃい――ッ……ひあぁッ……」
膨らむ根瘤が割れ目をグリグリと圧し潰し、そこから際限のない快感が沸き起こってくる。
司は山神に抱きすくめられたまま、根瘤が消失するまで、拷問のような法悦に狂い続けた。
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