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第7話

 初めての発情は、十日ほど続いた。  胎に種つけされる苦しさに泣き、もう二度としたくないと拒んでも、盛りのついた体はそれを許してくれなかった。結局毎夜の如く胎に山神の牡を受け入れ、肉体は悦びに慣らされていった。盛りの時期が終わったときには、もう山神との交合を拒もうとは思わなくなっていた。  盛りの時期さえ過ぎれば、日中は穏やかなものだ。そう言えば聞こえがいいが、刀鍛冶の仕事もなければ、テレビや雑誌などの娯楽もない。あまりにも退屈すぎて、司は与えられた東の対の屋を抜け出てみることにした。何か目新しいものに触れて気晴らしをしたかったのだ。  山神から与えられた羽織さえ着ていれば、山犬たちは相応の敬意を払ってくれる。見つかっても大したことにはならないだろうと思いつつ、念のため物陰に隠れながら探索していた司の耳に、山犬たちの会話が入ってきた。  それは、立ち入ることを禁じられている三の鳥居の内側に、村の若者の一人が頻繁に出入りしているというものだった。東雲の家の者らしいと聞いたところで、司は思わず山犬たちの前に飛び出していた。 「若者って、何歳ぐらいの……」  今はもう東雲家の若者と言えば和泉しかいない。  二の鳥居の前で最後まで立ち去ろうとしなかった姿を思い出し、思わず声をかけた司は、山犬たちの顔つきを見た瞬間、迂闊に飛び出したことを後悔した。侍のような身形をした二人の山犬は、他の山犬たちとは明らかに違った。体つきが大きく、鬣のように豊かな毛並みが襟元を飾っている。長く強靭そうな顎を持ち、口元からは肉を噛み裂く長い牙が見えていた。 「……孕み胎だ」  片方の山犬がそう呟くのを聞いた瞬間、司は元来た方へと逃げ出した。  だが人間が全速力で逃げたとしても犬の足に敵うはずがない。あっという間に追い付いてきた山犬は、司の身体を突き飛ばし、地面に倒れ込んだところを掴んで高床の下へと引きずり込んだ。 「や、め……ンンッ!」  床下の暗がりで口を塞がれ、帯を毟り取られる。獲物の肉を噛んで引き千切る荒々しさだ。暴れる手足は獣人たちの屈強な手に掴まれて、骨が軋むほど捩じられた。司は恐怖に竦みながら悟った。この山犬たちは司を傷つけることなどなんとも思っていない。抵抗すれば手足を折られて強姦されるだけだ。  司は目を閉じ、震えながらも体から力を抜いた。五体満足でいたければそうするしかない。 「お社様の孕み胎だぞ」 「構わん。孕ませてしまえば下げ渡される」  獰猛な犬の唸り声に似た声で山犬たちが言う。司は俯せに押さえつけられ、腰を高く持ち上げられた。慌ただしく袴を脱ぐ気配がすると同時に、司の鼻は香木に似た独特の匂いを感じ取った。この山犬たちも長の性を持っているのだ。胎の奥がジワリと潤む。  この山犬たちは、おそらく山神と同じ逞しい肉棒を持っているはずだ。その肉棒に犯され、根瘤を詰めて精を吐き出されたら、きっと自分は善がり狂ってそれを受け入れるのだろう。相手が誰であっても、合意がなくても、蜜壺の中を掻き回されて正気でいられる自信はない。尻を振ってそれを悦び、腹を膨らませてイキまくるのに決まっているのだ。  自らの性の浅ましさに衝撃を受けて青ざめた司の首を、山犬の手が掴んだ。 「時間がない。二本挿しにするが悲鳴を上げるなよ」  そう言いながら喉を絞められ、悲鳴どころか呼吸さえも塞がれた。司は目を見開いて山犬たちを見つめた。四つん這いになった体の下と背後から、長大な肉棒を奮い立たせた二匹の山犬が司の身体を挟んでいる。山犬の手が尻肉を開き、その奥にある窄まりに二本の凶器の先端が宛がわれようとしていた。  ――まさか、ただでさえ引き裂かれそうなこの肉棒を、二本同時に収めようと……?  小刻みに震えて首を振る司の頬を、濡れた長い舌がべろりと舐めた。 「根瘤二つで中が裂けても、孕み胎なら仔を生める」 「!……ンッ、ッ、ッ……!」  指が食い込むほど尻を掴んで、二本の牡が逃げ場のない窄まりを抉じ開ける。声を上げようにも喉を絞められ息すらできない。  捻じ込まれる肉棒に後孔が無理矢理に押し広げられ、首を絞められる窒息で目の前が真っ赤に染まった時――、血の匂いが辺りに広がった。 「ギャインッ……!」 「キャキャキャンッ……ッ」  犬たちが悲鳴を上げて転げ出ていく。呼吸を取り戻した司は、湿った地面の上に倒れ伏し、荒い息を継いだ。その体が強い力で床下から引きずり出される。  涙で滲む目に映ったのは、鼻に皺を寄せ犬歯を剥き出しにした山神だった。 「去ね……!」  着物を脱ぎ落し、犬の姿になった二匹が毛皮を朱く染めて逃げていく。寸前のところで助かったのだと安堵する暇もなく、山神は司を荷物のように担いだ。階を軽々と飛び越え、真上にあった部屋の中に司の身体を投げつける。 「対の屋を出てはならぬと命じたぞ!」  今まで見たことがないほど怖ろしい貌で、山神が吠えた。  強姦されかかったところだというのに、労わるどころか物のように投げつけられた司は、震えあがりながらも叫び返した。 「いつまで!? いつになったら村に帰してくれるんだよ!」 「役目を果たさば帰すと言っている!」 「もう何回もヤッた! 何回も、何回も、何回もヤッたじゃないかッ!」  胎に長の種をつけるのが役目だと言われて、苦しい性交を何度受け入れたか。  どれほどの快楽を与えられても、圧倒的な力の差で有無を言わさず捻じ伏せられる心までもが喜んでいたわけではない。村の為だ、孕み胎だからだと自分を騙し騙し耐えているのに、理由も告げずに何もない部屋に何日も閉じ込めておいて、怒鳴りつけられるのは我慢ならない。 「冗談じゃない、もう村に帰る! 帰れないなら、死んだほうがましだ!」 「孕みもせずに……ッ!」  鬼神の形相で襲い掛かってきた山神を司は蹴りつけた。それしきの抵抗が堪える相手ではないと分かっていたが、殴られようが殺されようが、もう黙って犯される気にはならなかった。  案の定、山神は小枝でも払うように足を払い、返す手で逆の足首を掴んで引きずり寄せた。後ろから首を掴んで床に押さえ込み、背後から荒々しく挑みかかる。 「嫌だ……あぅうッ!……」  悲鳴も罵声も意味を為さなかった。ほとんど濡れてもいない肉を掻き分け、山神の牡が胎の中を掻き回す。司の意志など思いやりもしない凶器に中を抉られて、長のために用意された肉壺はそれでも悦びを生み出し始める。 「あ、あぁ……あ、ああああ、あ……ッ」  床に顔を擦りつけて泣きながら、司は最初の絶頂に堕ちた。一度堕ちるともう歯止めは効かない。中が濡れて蜜を滴らせ、悦びを得ていることを知らせてしまう。 「これでもまだ死んだ方がましと言うか! 我の牡をこのように咥えこんでおきながら!」  突き破らんばかりに腰を叩きつけながら、山神が怒りに満ちた声を上げた。蜜が掻き回される濡れ音を聞きながら、司は精いっぱいの虚勢を張った。 「死んだ、方がマシだ……村に、帰る……ッ、もう、帰る……ッ……」 「こ、の……ッ」  司の答えを聞いて、胎に収まった怒張が一回り大きくなった。悲鳴を上げる司の声に重なって、獣の唸り声のように歪んだ山神の声が響く。 「村に未練でも残してきたか……――許さぬぞ……其方は我の番だ……!」  山神の牡がもう一回り大きくなる。見開いた司の目の前に、黒々とした獣の太い前足が現れた。背後に感じる肌が毛皮に覆われていくのを感じ、司の喉から引き攣るような驚愕の声が迸った。今司を犯しているのは、漆黒の毛皮を持つ巨大な犬だったからだ。  逃げようと思う間もなかった。首の後ろに焼けるような激痛が走る。長い牙が突き刺さり、肉を裂いて項に食い込む。 「……アァ――ッ……!」  噛みつかれた傷から毒が回るような痛みが走った。  意識を遠のかせていく司の耳に、『二度と里には帰さぬ』と嘯く獣の唸り声が聞こえた。

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