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第21話〜過去〜
きっかけは些細なことだった。
僕のお父さんは会社を経営していて、家は他よりは裕福だった。
お父さんはいつでも完璧を求めており、それは僕たち兄弟にも及んだ。
僕が5歳の時だ。
「そろそろ南もなにか検定をとれ。」
「え?」
「千聖と陽向がお前の歳の時にはもういくつか持っていたんだぞ?
なのにお前ときたら何一つ持っていない。
いいか?この藍川家に生まれたからには常に1番でいろ。」
「…はい。」
ちさ兄は僕の9歳上のお兄ちゃん。
ひな兄は僕の7歳上のお兄ちゃん。
この2人は僕とは違ってすごく優秀だった。
だからお父さんのお気に入りで、なにか飛び抜けた才能がなかった僕はいつも失敗作として扱われてきていた。
扱いはお兄ちゃん達とは違って酷かったけど、頑張ればいつか、褒めてくれると思ってたからいつも元気でいられた。
そんな時、僕が以前受けた検定の結果が届いた様で、ちさ兄が僕に教えてくれる。
「南〜、結果が届いたみたい。」
「ほんと?ちさ兄は中身もう見た?」
「見たよ。」
ちさ兄はニコニコしてるからきっと結果が良かったのかも!
僕試験の日まで毎日勉強したし…!
まぁ休憩がてらちょっとだけ本は読んじゃったけど…
「お父さんと一緒に見たら?
お父さんを驚かせてみようよ。」
「それいいかも!」
きっとお父さん結果見た後に褒めてくれるよね!
…抱きしめてくれるといいな。
「お父さん!この前の結果が出たみたい!一緒に見よっ!」
「…もう少し声を抑えろ。お前は周りのことも考えられんのか。」
「ッごめんなさい…」
ならいい、と言ったあとお父さんは僕の手から試験の結果をとっていく。
僕はずっとお父さんを見てた。
急に驚いてる顔をしてたから嬉しくなる。
そしてお父さんが僕に近づいてきた。
抱きしめてもらえるかも!
胸がドキドキする。
けどそんな思いは一瞬にして打ち砕かれた。
バチンッ!!、と鈍い音が部屋に響く。
何故か僕はビンタをされて尻餅をついている。
「え?え??」
「…この戯けが!!
どうしてお前はこんなことも出来ないんだ!!
こんな簡単な検定にも受かれないで恥ずかしくないのか!お前は藍川家の恥だ!!」
…………どうやら僕の勘違いだったみたい。
最初から結果は悪かった。
僕の努力はなんの意にも介さなかったんだ。
「出てけこの欠陥品!!!」
「ッはい…
失礼しました…。」
廊下に出るとちさ兄がすごく楽しそうだった。
「すっごい怒られてたね。可哀想〜
でも全部南が悪いよね。なんの才能もない南が悪い。
だよね?ボク何も間違ったこと言ってないよね?」
「ッ、うん…」
これが僕にとって地獄の始まり
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