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第119話〜ハルとの時間〜

 言葉を理解したくなくて固まる。 それでも人っていうのは嫌でも言葉を理解するのだから、なんとも残酷だ。 「南?」 「ぁ、ッえ、…」 嫌だ。別れたくない。ずっとハルといたい。僕なにか嫌われるようなことした? たくさん言いたいことはあるのに、うまく言葉が出せない。 「ッ、俺と暮らしても気まずいよな…。そうだ、奏斗に頼んで…」 話がどんどん進んでいく。 僕が固まっている間にハルは東さんと電話を済ませた。 「ごめん。今日だけは一緒に寝るけど、明日からは奏斗の家だから我慢してな」 今日だけ………今日ここで過ごしたらもう二度とここに戻れなくなるんだ… 「………わかった。」 それでも最後までハルに迷惑かけたくなくて、頑張って絞り出した声で応えた。  いつもの様にお風呂に入る。それも今日で最後なんだ。 浴槽に浸かりながらそんなことをずっと思っていた。 ハルと同じシャンプーを使うこともない。 ハルと同じ匂いがすることもない。 ……泣けてきた。 涙腺が緩んじゃって、視界がぼやける。 「ヒッ、クッ、」 ひとしきり泣いた後、お風呂を出た。 いつもハルは僕の髪をドライヤーで乾かしてくれたけど、今日もやってくれるかな… 少し期待を抱きながらリビングに向かった。 「ん、出た?んじゃ乾かそっか。」 乾かしてくれた。 いつも通り、優しい手つきで、眠たくなるくらい心地いい…… ぼーっとしていたら、ずっと煩かったドライヤーの音が消えた。 「あ…」 「どうかした?」 「う、ううん。なんでもない…」 この幸せな時間も終わってしまった… あとハルと出来ることはなんだろう。 数えるのをやめようとしても、どうしても数えてしまう。 もう考えないように、僕は見つからぬよう手の甲を抓った。 「ッ」 痛覚でもう何も考えられなくした。 ふと見たら酷く赤くなってたけど仕方ないや…… 「おやすみ」 「うん。おやすみハル。」 久しぶりに一緒に寝る。 最近は仕事で、ハルは夜遅くまで起きてたし、朝起きるのもハルと僕はバラバラだった。 隣からハルの体温を感じる。 でもハルは僕に背を向けてるから、また涙が出てきた。 抑えないと。 それでも次から次へと涙は流れてくるから、袖で拭いた。 僕だけでも…って、ハルの方を向いて僕は目を瞑り、夢の世界へと向かった。

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