〜南side〜 「……南」 1番に口を開いたのはハルだった。 「俺の話…聞いてくれる…？」 「うん。僕、ちゃんと聞くって決めた。」 「そっか」 優しい顔だ。 僕はこの顔が大好きで、いつまでも見ていたい顔。 「まず、南が見たっていう女性は俺の担当編集者」 「…え？」 覚悟して聞いたのに、予想外の言葉で驚く。 ていうことは、傍から見たら僕はただのワガママっ子で、ただのめんどくさいやつだったんだ。 　昔の僕だったら……あんな勝手なこと言わなかったし、ずっと黙ってるだけだったのに… いつの間にか図々しくなっていってたんだ。 衝撃の事実に少し動揺する。 「南は…俺に好きな人がいると思って告白を断ったってことで良いんだよね…？」 「…うん」 「そっか。じゃあこの際だから言っとくけど、俺にはもう南しかいないよ… 南がいない一晩だけでも、寂しくなった。 前の俺はどうやって過ごしてたか不思議なくらい。」 困ったようにハルは笑い、聞いていた東さん達は『あの晴が…？』といった顔だ。 でもハルはそんなこと気にせず、ただ僕だけを見てくれている。 今度こそ、しっかりと言う。 そう決めたんだ…… 僕は緊張しながらも、一晩考えたことを口に出す。 「…ぼ、僕も寂しかった…！ でも前の僕だったら一人が当たり前で、頼れる人がいなくて、我儘を絶対に言わなかった。 ハルと出会ってからその全てが消えた。それが僕にとってすごい嬉しかった。 でも怖くもなった……こんな面倒な人、いつか見放されるんじゃないかって…」 「そんなこと、」 ハルが口を開いたけど、優さんが手をハルの口の前にやった。 僕の気持ちを優先してくれるみたい。 優さんに制しられたハルも黙る。 「…ほら、僕の気持ちをちゃんと聞いてくれる…。 そんな所も大好き。 ハルが大好きすぎて辛いの……この思いがいつか飛び出すんじゃないかって心配になるくらい。 でもハルがいない方がもっと辛かった。 生きる希望すら見いだせないの。 あのね、ハル……今から言うことを、聞いて欲しい」 「俺はいつでも南の話を聞くよ。」 「うん…ありがとう」 嬉しくて目頭が熱い。 「ハル……もしまた良いのなら、僕と付き合ってください………」 ハルの顔は見えなかった。 だって直ぐに抱きしめられたから。 でも答えはわかった。 「勿論」 声しか聞こえないけど、確かにその声はハルの心落ち着く声で、優しく背中をさすられた。 それをされると僕の涙腺はもうダメで…。 初めてかもしれない。 僕は大声を出していっぱい泣いた。