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第192話〜2〜

 俺はあの日から彼が忘れられなかった。 あの白い肌に艶のある黒髪。それに大きな目にぷっくりとした唇。 この学校にこんな子がいたのか…… 俺は常に本を読んでるか俯いているかなので、周りのことには疎かった。 しかしすぐに彼の名前はわかった。 藍川 南 結構有名な子らしい。 なんでも、家が金持ちだとか、可愛くて話しやすいのに何故か壁を感じるだとか色々言われている。 俺は藍川くんと話したいがために、この前のお礼をネタに探し回った。 「………いない。」 どこ行っても見つからない。 絶対に隠れんぼはうまいタイプだろう。 あと行ってないところといえば、屋上か。 しかし屋上は鍵がかかっている。本当にいるのだろうか? あぁ、いや。行ってみないとわからない。 階段を上っていくうちに、誰かがドアにもたれかかっているのが見えた。 もしかして体調が悪いのかもしれない。 「あの、だ、大丈夫ですか?」 「……ん?」 顔を上げた人がなんと藍川くんで驚く。 「あ、藍川くん!?」 「…僕のこと、知ってるの?」 「う、うん…」 「そっか」 なんだろう。 何か落ち込んでいるのかな? 彼を元気づけたい。 「あの…!何があったかは分かんないんですけど、きっと、いい事ありますよ…!って、こ、こんな僕に言われても嫌ですよね…はは…」 「……ううん、ありがとう」 少しだが、彼が笑ってくれた。 何故か胸が熱くなる。 「あの!この前……あ、チャイムなっちゃった……。」 チャイムが鳴ってしまい俺の声はかき消されてしまった。 「………教室、戻らないの?」 藍川くんから話かけに来てくれてドキリとする。 「あ、うん。戻るよ。そ、その…一緒に戻らない?」 「いいよ。戻ろっか。」 良かった。断られたらショックを受けていただろう。 しかしその時以来、藍川くんとここで会うことはなかった。

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