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第199話〜2〜
「俺今度の最後の作品、南を登場させたいんだ。」
「え!?」
思いもよらぬことに目を見開く。
「それは全然いいけど………僕でいいの?」
「南じゃないと書かないよ。」
その言葉に胸が温かくなる。
でも、僕が登場…ってどういうこと?全然想像がつかない。
「俺ね、最後の作品は自分の人生について書くつもりなんだ。
それでちゃんと、世間に南のことを知って欲しい。」
キタヤ先生は基本的フィクション本だ。
だからノンフィクションというだけでも珍しいのに、ハルの人生についてなんだ。
誰もが関心するだろう。
だけれど…ハルの本に、こんな僕が出てきてもいいのだろうか。
薄汚いこの僕を…………
僕がこんな考えをしているのに気づいたのか、ハルがいきなりデコピンをしてきた。
「いッ!?」
「そんな顔しないで。
………俺は、どっかで認められたいと思ってたみたいなんだ。
世間に南との関係を認められたい。
そう思ったら、勝手に手が進んでしまう………。
利用するみたいで嫌だよな………。やっぱやめるよ。」
ハルが珍しく落ち込んでいる。
その事に驚いていると、いつの間にかハルが今の話をなかったことにしようとしているではないか。
僕は急いでそれを止めた。
「わー!待って待って!」
「え?」
「僕は全然いいの!寧ろ登場したいなとか思った!
でも……こんな僕が出ていいのかなって…。」
「なんで?」
「え?だってほら、僕褒められるような人生歩んでないし…もっと言うならすごく汚い。」
「そうかな?」
「そうだよ!………そうなんだよ。だから、」
やっぱり僕は出ない方がいい。
そう言おうとしたら、ハルは『あのさ。』と言って口を出した。
「俺、さっき認められたいって言ったけど、ちょっと違うんだ。
……知って欲しいんだ。南の存在を。」
「そん、ざい?」
その言葉に何故か目頭が熱くなり気づく。
実家にいた時、『早く死にたい。』って思っていた自分。
父には『役立たず。』
兄達には『性奴隷。』
生きてる実感がなかった。
だからだろうか。
僕はここにいる。ここで生きている。そう思わせてくれるハルが凄く眩しい。
そしてハルの考えを聞いて、もう僕は断れることなんて出来なかった。
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