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2話「Ωだと思っていた息子が……」
15歳の鵠はまだ発情期を迎えていなかった。
それは幸運なことではない。例えば学校の教室、下校中、繁華街――いずれで発情期がきて襲われても何らおかしくない、ということだ。
だからお守り代わりに、Ωの発情を抑える薬――抑制剤を肌身離さず持っているように言い聞かせた。
1週間、息子と二人きり。
そんなこと、今まで何度もあったはずなのにやけに緊張している自分がいる。
おかげで在宅仕事がはかどり、ひと段落したところで時計を見ると夕方の5時を回っていた。どうも在宅仕事は体内時計が狂ってしまっていけない。
鵠が母の日にプレゼントしてくれた赤いエプロンを身につけ、急いで夕食にとりかかった。
――――しばらくすると玄関のドアが開く音がして、息子が帰宅したのだと察した。
炒め物をしていた最中だったので、背中を向けたまま「おかえり」と告げた。
「ただいま……あれ、すごい良い匂い」
「おっ、わかる? 今日はお前の大好きなハンバーグだぞー」
「ちがう。そっちじゃない。母さんから、すごく甘い匂いがするんだよ」
言葉の意味が理解できず、フライパンの火をとめて振り返る。
ヒュッ、と息を呑んだ。
目の前に燃えるように赤らんだ、鵠の顔があった。
肩で息をしながら、今にも泣きそうな瞳で訴えてくる。
「……母さん。僕、変になっちゃったのかな? さっきからカラダが熱くてしかたがないんだ」
――――ヒートだ。俺の発情期のフェロモンに当てられたんだ。
そういえば、ずっと仕事をしていたせいで抑制剤を飲むのをすっかり忘れていたことを思いだす。
だけど鵠はΩだ。Ω同士はフェロモンで誘惑されることはまず有り得ない。
疑問が浮かんだ頭に、鈍い衝撃が走る。
床に押し倒され、これから犯されるのだと察した時には、何もかも手遅れだった。
「母さん、母さん、母さん、母さん……」
呪文のように呟きながら、俺のエプロンを剝ぎ取り、衣服を力任せに引きちぎった。
外気にさらされた腹に息子の涎がダラダラと滴り、背筋に悪寒がはしる。
「だめ、この匂い嗅いでると頭おかしくなる。やばい、とめらんない」
ザラリとした舌が胸や腹筋やへそを撫で上げる。
やめろと叫び、息子の両肩をつかみ引き剥がそうとするが、全く動かない。
この子はこんなにも力が強かっただろうか。
つい最近までその体を抱え上げられるほど小さかったのに。こんな形で息子の成長を感じられるのはひどく屈辱的だった。
「アッ! 駄目、そこは――――っ」
ズボンと下着をずり下され、尻の窪みに指があてがわれたので、慌てて叫んだ。
しかしその制止を無視し、鵠は中をグチャグチャと掻き回すように弄った。
「どうして? 駄目じゃないよね? だってこんなにトロットロになってるもんね? 母さんのココ」
「――――ヒッ、うぅ、やめっ…………」
「やめないよ。やめられるわけ、ないよ」
自分から発せられる水音を聞きたくなくて耳を覆う。
が、すぐにその手は払いのけられ、目の前に突きつけてきたのは、反り立つように勃起した肉棒。
それは俺の知っている可愛い息子ではなく、今にも精液を吐き出さんとパンパンに膨張した雄のペニスだった。
「いや……いやだ、鵠。それだけはやめて――――」
「母さん、僕と一緒になろうよ」
俺の懇願は空しく、息子のものが挿入された。
さっきまで強張っていた自分の体は、異物の侵入にあろうことか緊張を解いて受け入れようとしていた。
夫の形に慣れた穴が、新しい肉棒になれようと活発に収縮を始める。
「……ああ。母さんのナカ、あったかくて気持ちいい。僕が生まれる前はこんな感じだったのかなぁ」
鵠は額から汗を流し、喜びを噛みしめているようだった。
そして出し入れを繰り返す。
前戯も形式もあったもんじゃない。己が性欲に忠実に、若さゆえの勢いに任せて腰を振る乱暴なセックス。
それは夫の鷲とは何もかもが違っていて――刺激的だった。
ユサユサと揺さぶられた頭は快感に従順になりかけていたが、息子の一言で冷めてしまう。
「僕、母さんと番になりたいなぁ」
腰を振る動作が止まったタイミングで、ドンと鵠を突き飛ばした。
ズルリと肉棒が抜けて、その刺激でイキそうになったが、奥歯を噛みしめて耐えた。
壁に頭をぶつけ、呻く息子に罪悪感を抱きながらも、そのまま無視してトイレに直行した。
鍵を閉めたと同時にガチャガチャとドアノブが回る。
「母さん、開けてよ。ねぇ、お願い。母さんってば」
今度はドンドンと扉を叩く音に変わる。
声は大好きな我が子のものなのに、無理やりこじ開けようとする様子は恐怖でしかない。
このままじゃまた襲われる――――逃げる時に反射的に掴んだスマホを握りしめ、この状況を打開する案を必死に考える。
誰に助けを求めればいい?警察?鷲?息子に犯されそうだと、伝えるのか?
「んなの、できるわけねーよ」
どうすることもできず、弱音を吐いてしまう。
息子が諦めてくれますようにと祈って、震える体を抱えるように体育座りをするしか手段が思い浮かばなかった。
――――突然、耳にはりついた騒音が止んだ。
諦めてくれたのか、それとも俺が出てくるのを扉の向こうで待っているのか、不思議に思って顔を上げる。
カチャリ、とドアノブが捻られ、鍵をかけていたはずの扉が開いた。
手にドライバーを持って立ち塞がる鵠が「ひどいよ母さん」と口の端を吊り上げて言った。
その狂気を孕んだ笑顔に、息を呑んだ。
こいつは誰だ?
溶けそうな熱量を孕んだ視線で、メチャクチャに犯してやりたいと全面に出した雄の顔を向けるこれは誰だ?
紛れもなく、俺の息子だった。
「く、ぐい――――――」
「もう、逃がさない」
鵠は獲物を捉えた獣のように、俺の首輪に歯を立てた。
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