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「僕はオメガなので……」
「オメガだろうと関係ない」
断言するルアンの物言いに、遼祐は一瞬呆気に取られる。
「オメガだろうと、ベータだろうとなるべき者が上に立つ。俺の国ですら今は、性別で能力を判断しない」
ルアンはどこか憤った様子で言った。
そんな国が存在するなんて、遼祐にとって寝耳に水だった。でもルアンが持ってきた抑制剤があれば――学校に通うことも、仕事を休まずに済むことも可能なのだろう。
そこで昨晩考えたことをルアンに話そうと、遼祐は口を開く。
「実は……今日は話があって来たのです」
「そうか。ならば中で話そう」
ルアンは後ろにいた獣人に「初の日本人の客だ。丁重にもてなそう」と言って、指示を出している。
遼祐はそこまでする必要は無いと断ろうとするも、ルアンは「謙遜は日本人の美徳なんだろうが、俺には必要ない」と言って遼祐を船に乗るように促した。
仕方なく促されるまま、船に乗り込むも内心は気が気では無かった。また帰りが遅いようだと光隆に小言を言われかねない。
「どうしたんだ? 外観と中の落差にがっかりしたのか?」
目敏く遼祐の異変に気づいたルアンの指摘に、遼祐は慌てて首を横に振る。
「いいえ。そんなことは」
中は豪奢な造りで、洋燈が天井にいくつも吊り下がっている。何部屋も船室があるようで、案内された一室は革張りのソファーに深紅の絨毯が敷かれていた。とても質素には見えない。
「長時間の旅になるときもあるからな。船室は多く設けているんだ」
向かいのソファを進められ、遼祐は腰を下ろす。そこで自分が手にしていた大福の包をテー
ブルに置いた。
「つまらないものですが、昨日のお礼です」
謝意を述べて頭を下げると、ルアンが感激したような声を上げた。驚いて遼祐は顔を上げると、ルアンは口元を左右に広げて笑っていた。
「つまらない物をわざわざ他人に差し出すのかと、最初の頃は不思議に思っていた。でもこれは、日本人の美徳でもあるへりくだった物言いなんだろう? 面白い」
何が面白いのか、ルアンは楽しそうに言った。
「いや、失礼。ありがたく戴こう」
ひとしきり笑った後、ルアンは気を取り直したように包を手に取った。
そこに盆を片手に、先ほどの獣人が現れた。
ルアンは「日本人からの手土産だ」と言って、大福を一つ手渡している。
「有り難く頂戴いたします」
そう言って獣人は、遼祐に向かって敬礼した。
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