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「これは美味いな。気に入った」
そう言って、次々と口の中に入れていく。ルアンの体格が大柄なせいか、大福がなんだか飴玉みたいに小さく見えた。それに加えて、大きな口を動かし咀嚼する姿は何だか愛らしく見えた。
近々、天堂家に来る約束を取り付け、何度もお礼を言う遼祐をルアンが橋まで付き添った。
「リョウスケ。来たい時には、いつでも来るが良い」
そう言い残して去っていく後ろ姿を、遼祐は最後まで見送った。
見た目は確かに常人離れしているが、中身は人間と何ら変わりない。それに自分のことを一人の人間として、扱ってくれた気さえした。
すっかり夜は更け、帰りの道中は人気が少ない。それでも遼祐の心持ちは弾んでいた。
ルアンが言った「いつでも来ていい」という言葉。オメガの自分を迎え入れてくれるなんて、初めてのことだった。
嬉しさに涙が出そうになり、遼祐は慌てて空を見上げた。
細い月がルアンの瞳のように、鋭く光っていた。
翌日以降、遼祐は手土産を携えてはルアンの元に訪ねるようになった。
家に居てもすることもなく、光隆を見送ってからは散歩に行くと言って、船着場に足を向けた。
道中で買う土産物を考えるのも楽しく、新鮮だった。それにルアンは大げさなぐらいに喜びを露わにした。感情を素直に表現するルアンに、遼祐もまた胸が弾んでいた。
大福だけに留まらず、花林糖や羊羹も持っていったこともある。大口開けて食べるのに、何故か口の周りを汚す姿は、小さい子供のようにあどけなかった。
ルアンは土産のお礼にと、各国から集めてきた銅器や絵画を見せてくれた。
さすがは各国を見て回っただけあって、ルアンは博識で遼祐は夢中で話に耳を傾けた。
自分の知識が如何に乏しいか、話を聞く度に思い知らされた。そして同時に、憧れも芽生えていた。
「僕も色んな国を見てみたいと思っていた時期もありました。幼い頃に、父に連れられて完成した船の出航を見送ったことがあって、その度に船乗りの人に憧れていましたから」
持ってきたカステラを食しつつ、遼祐が呟く。
オメガだと分かる前の父は、よく連れて行ってくれていた。将来は父の右腕として、傍で働くかもしれない。父も遼祐もかつてはそう思っていた。
「リョウスケも見に行けばいいじゃないか。何を躊躇っているんだ」
ルアンはそう言って、溢れたカステラのカスを拾い上げて器用に口に入れている。
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