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「そうですよ。リョウスケ様ならきっと、立派な船乗りになれますよ」
あしげく通っていたいたせいか、使用人のカルダとはすっかり親しくなっていた。
「どうなんでしょう」
もそもそと口を動かし、遼祐は視線を落とす。そもそも天堂家に入っている以上は、日本からも出れない気がしてならなかった。
「お前はどうしたいんだ?」
「えっ?」
顔を上げると真剣な眼差しのルアンが、口にカステラのカスを付けつつ遼祐を見据えていた。
「日本人はどうにも、本音を言いたがらない。常に腹の探り合いのようなことばかりじゃないか」
珍しく憤りを露わにしているのか、ルアンは鼻息荒く言った。
「僕は……」
そこで遼祐は口を噤む。理想を口にしたところで叶わぬ夢。虚しくなるだけだった。
「今のままで、充分に幸せです」
遼祐は笑みを浮かべて言った。
自分の運命はすでに決まっている。オメガとして、芳岡家に相応しい相手との橋渡しになること。それが自分のオメガとして生まれた宿命だ。
「立派な家に輿入れすることが出来ましたから。両親も喜んでいますし――」
「番にしてもらえてなくてもか?」
「ルアン様!」
鋭い指摘に、遼祐は言葉を失った。カルダが慌てて止めに入ってくる。
「俺にはリョウスケが、嘘を言っているようにしか見えないな」
「……そんなことは」
「オメガの発情期がどれ程苦しいのか。それぐらい分かっているはずだろう。愛する者が苦しんでいるのに、どうして放っておくことが出来るんだ。俺には理解できない」
淡々とした口調で述べると、最後のカステラを口に入れている。
ルアンは「今日は疲れた」と言って、腰を上げるとそのまま部屋を出て行ってしまう。いつもは温厚なのに、今日は虫の居所が悪いようだった。
慌てて追いかけるように、カルダも部屋を出てしまう。一人残され、遼祐はテーブルにに残された空の箱を見つめた。
自分の言ったことを本心じゃないと、ルアンは見破っていた。確かにルアンと出会って一ヶ月近く経ったが、遼祐と光隆の関係は平行線を辿っている。
遼祐の発情期が収まったことに関して、光隆がどう思ったのかすら分からないままだった。顔を合わせても、不愉快だと言いたげな表情をされるだけで何も聞かれていない。
次の発情期まで二ヶ月はある。それが今は待ち遠しく思えてしまう。
前まではあんなに、この身体を憎く思っていたのに、無いならないで不安が襲った。まるで自分が本当に無価値な人間のように思えてしまうのだ。
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