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 今度はちゃんと発情期を迎えて、光隆に番になってもらうように頼もう。そう心に決めていると、カルダが部屋に戻ってきた。 「ルアン様から送るようにと仰せ使いました。参りましょう」  苦い表情を浮かべたカルダに促され、遼祐は静かに腰を上げた。 「ルアン様はリョウスケ様が好きなんだと思われますよ」   薄っすらと明るい夜道を歩きつつ、カルダが唐突に切り出した。 「商談が長引くと貴方様が来ているかもしれないからと、ルアン様は落ち着かないご様子でして。仕舞には護衛は不要だと仰られて、私は留守を任されるようになりましたから」  そこまで来るのを心待ちにしてくれていたとは、思ってもみなかった。  遼祐は驚いて、隣を歩くカルダを見上げる。 「あんな風な態度を取られたのも、貴方様が心配で堪らないからなんです」 「僕のことが?」 「ええ。ルアン様の弟君もオメガなんです」 ルアンは色んな話をしてはくれたが、自身のことについては話をしてきたことはない。初めて明かされるルアンの素性に、遼祐は静かに耳を傾ける。 「かつては我々の国もオメガが虐げられてきました。オメガとなれば、奴隷として売りさばかれてしまう者が殆どでしたから」  カルダの横顔は、淡い月明かりによって一層に憂いを帯びていた。 「ルアン様は弟君を守る為に軍に入り、後に資産を投げ打って貿易を始めました。各国を渡り歩き、抑制剤を求めて旅をしてきました。苦心の末、とある発展国で抑制剤を手に入れたのですがーー」  そこで言葉を切り、カルダは空を見上げた。眼光の強い瞳は、さらにギラリと光る。 「ルアン様が国に戻ると、すでに弟君は疫病で伏せられておりました。私はその時、初めてルアン様が泣いておられるのを目にしました」  唸るように、カルダは喉を鳴らした。 「この世からオメガの差別を無くしたい。その時にルアン様は怒りと悲しみをたたえた表情で、そう訴えておられました。前からお慕い尽くしておりましたが、私はこの時より一層、生涯かけてこの方にお伴しようと決めたのです」  カルダは屋敷の近くで足を止めると、遼祐と向き合った。 「私は長年お側に仕えておりましたが、リョウスケ様ほどに親しくされた方はいらっしゃらないと思われます。今後とも、ルアン様をよろしくお願いします」  そう言ってカルダは頭を下げてきた。  遼祐は「ご迷惑でなければ、また伺います」と言うのが精一杯だった。

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