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「心外だな」  低く吐き捨てるような物言いに、遼祐は驚いて笑みを消す。 「俺がいつ、土産が欲しいから来いと言ったんだ? 俺はリョウスケに逢いたいから、いつでも来いと言ったんだ」  そう言ってルアンは背を向けてしまう。  どう言葉を返せば良いのか分からず、遼祐は口を閉ざす。自分に逢いたいなどと、直接言われたのは初めてのことだった。  心臓が暴れているように激しく打ち鳴らす。 「……夜はまだ冷える。早く中に入ろう」  そう言って、沈みゆく夕日に向かってルアンは歩きだした。遼祐も慌ててその後を追う。  長く伸びている自分を覆うような巨大な影。その影を生み出している大きな背が、遼祐の前にある。まるで守護する強靭な盾のようだった。  ふいに押し寄せる寂寥感に、胸が詰まる。後ろ指さされる人生の中、ルアンという自分を認めてくれる存在に出会えたことが幸福でもあり、ひとときの安らぎだった。  ルアンと過ごせるのも後一月ほどだろう。 すぐそこまで、別れの刻が迫っていた。  ルアンも近い別れを感じているのか、その日に天堂家に赴きたいという話が出た。 「遅くなってしまったが、リョウスケとの約束を果たそうと思う」  あの日から一向に話が持ち出されず、それに加えて自分自身も煮えきれない心持ちであったせいか、話が進まずにいた。 「そこで来訪の日を決めたいんだが、主人に聞いておいて貰えるか?」 「……分かりました」  頷くも内心は、落ち着かない心持ちになった。果たして光隆は自分の話に耳を貸すだろうかと一抹の不安が過る。 「大丈夫か?」  憂鬱が顔に出ていたのか、ルアンに問われてしまう。 「問題ありません」 「……それなら良いが」  それ以上は探るような真似はせず、ルアンは「遅くなったら向こうが心配するだろう」と言って、いつもよりも早く腰を上げた。  帰宅した遼祐は、落ち着かない心持ちで光隆の帰りを待った。大時計が九回打った頃。使用人達が騒がしく廊下を行き交う音が聞こえてくる。光隆が帰宅したのだと気づき、遼祐も急いで部屋を出た。  使用人に上着を渡す光隆を見つけると、遼祐は腹を括り近づいた。

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