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「部屋に戻っていなさい」
光隆は笑みを湛えているが、冷めた声音を遼祐に向けてくる。
「リョウスケも参加させた方が良いのでは」
すかさずルアンが間に入った。
「彼は良いんです。居ても何の役にも立たない」
「伴侶となる相手をそう蔑ろにするのは如何なものかと」
光隆の冷ややかな目が、遼祐からルアンに向けられた。
「貴方は家庭の口出しに此処に来たのですか? 私は商売の話をしに来たものとばかり思っていたのですが」
険悪な空気が重たく立ちこめる。
これ以上、仕事の邪魔をしたくはない。自分さえ立ち去れば、この場は丸く収まるのだ。
遼祐は「僕は部屋で待っています」と言って足早に部屋を出た。
背後からルアンが自分の名を呼んでいたが、聞こえないふりをした。
部屋に戻ると、扉にもたれ掛かりその場に崩れ落ちる。扱いが和らぐどころか、何も変わりはしなかった。
自分がどんなに天堂家に尽くそうとしたところで、光隆の心持ちを動かすことなど不可能なのだろう。
そもそも自分を陥れようとした時点で、光隆にとっては目障りでしかないのかもしれない。
男たるもの女々しく泣くべきではないと分かっていても、心は既に壊れかけていた。涙が袖を濡らし、目頭が熱を持つ。
ひとしきり涙を流すと、遼祐は袖で目元を拭って立ち上がる。こんな顔を見られたら恥晒し以外何者でもない。
顔を洗おうと遼祐は部屋を出た。長い廊下を進み、応接室の前を通りがかかると中から話し声が聞こえてきた。
「リョウスケは貴方との番を望んでいる。何故、その役目を果たしもせずに、そばに置いているんだ?」
自分の名が出たことで、そこから動けなくなってしまう。
「貴方には関係のないことだ。それに貴方は、抑制剤という本能に反する物を世に広めようとしているではないか。自然の摂理に反していると思わないのか?」
いつの間にか二人の間にあった遠慮は、取り払われているようだった。言葉が最初の時よりも荒々しい。
「確かに自然の摂理には反するだろう。だが、それで同じ人種が虐げられるのはおかしい事なのだ。兄弟であるにも関わらず、一方が優遇され片や蔑まれる。同じ腹から生まれたのにおかしなことだろう」
「それが第二の性によって割り振られた宿命なのだ。それを変えるのは神への冒涜に等しい」
「神への信仰心があるのであれば、なおのこと。神の下では皆平等であるのが教えだ」
負けじと言い返すルアンの様子に、遼祐の心の奥が熱くなる。
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