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「宗教論争はするつもりはない。兎に角、日本にはそんなもの必要ない」 「貴殿は遅れている。日本が必要としていないのではなく、貴殿の都合が悪いだけじゃないのか?」 「無礼な奴だな。さすがは獣だ。人間被れに何がわかる」  憤りを露わにしている光隆は、卑下する言葉を口にした。さすがにルアンも怒るのではと肝が冷えたが、聞こえてきたのは笑い声だった。 「リョウスケにはつくづく同情する。こんな亭主のもとにいたんじゃあ、幸せにはなれないだろうな」 「それはこちらも同じだ。叶うことなら今すぐにでも、離縁状を突きつけて引き取りに来てもらいたいぐらいだ」  分かっていても直接耳に届いた本音は、想像以上に胸を抉った。遼祐は掌を固く握る。 「ほう。ならば、早く解放してやるべきではないのか? 彼もその方が幸せなはずだ」 「出来るならそうしたい。互いのためにもな。だが、身分がそれを許さない。親が決めた結婚だ。逆らうなど、到底不可能。私もあいつもそういう運命なのだ」 「諦めが早いところは、貴殿もリョウスケも同じだな」  呆れの滲むルアンの声を最後に、遼祐はその場を離れた。  交渉が一体どうなったのか。それよりも自分がこれからどうたち振る舞えばいいのか、余計に分からなくなっていた。  外の井戸で顔を洗い遼祐が屋敷に戻ると、ちょうど廊下の奥から二人がこちらに向かってくるところだった。 「リョウスケ、今部屋に行こうと思っていたところだったんだ」  そう言って近づいて来るルアンの背後で、光隆が冷めた目で見つめていた。  居心地悪く俯く遼祐にルアンは、少し険しい表情をすると「渡したい物がある。うちまで来て欲しいんだが」と言って遼祐の肩に触れてくる。  光隆の手前どうしたらいいか分からず、遼祐は光隆に視線を向けた。 「こちらは一向に構わない」  光隆の了承を得たルアンは「許可は下りた。リョウスケ行こう」と言って促してくる。  屋敷を出ていつもの橋を渡っていると、珍しい獣人の姿に皆が振り返る。若い女性は恐怖に顔を引きつらせ、道の端に避ける者もいた。  あからさまな好奇の目に晒されるも、ルアンは差して気にも止めていないようだった。  その堂々とした姿に、遼祐は敬慕の念を抱くほどだった。  人通りが減った港に着くと、周囲は既に薄暗くなっていた。空の色を映し出したように、海も灰色の波を打つ。  すぐに船には向かわずに、ルアンは波打ち際で足を止めた。遼祐もその隣に並ぶ。  触れる風は少し冷たいが、泣き腫らした目や熱を持つ頬には心地良い。

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