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帰りはルアンが橋まで遼祐に連れ添った。 いつもより暗く危ないからと屋敷まで行こうとも言われたが、遼祐はそれを辞退した。
ルアンも不意を突かれて襲われないとは言い切れない。獣人狩りなどと言って、襲われる可能性だってあるのだ。
「抑制剤は症状が進む前に必ず飲め。完全に始まってしまえば、効かなくなるからな」
別れ際にルアンに忠告され、自分の発情期が近いことを思い出す。
一人になると屋敷に向かいつつ、抑制剤を飲むか飲まないか逡巡した。
発情期がなければ苦しむ必要がない。しかし、それだとオメガとしてすら不能だとばかりに、光隆との関係が余計に悪化しそうに思える。
壮大な屋敷を前にして、遼祐の足は止まった。
帰りたくない。ここは自分の居るべき場所ではない。足が竦んでいた。
自由に出入り出来る牢獄に、自ら入って一生を終える。それをはたして幸せだと呼べるだろうか。
「何をしているんだ」
突然声がかり、遼祐の肩が跳ね上がる。
気付けば遼祐のすぐ近くに、不機嫌そうな顔で光隆が立っていた。
「すみません……遅くなりました」
遼祐は謝辞を述べて通り過ぎようとするも、光隆に待てと言われ足を止める。
「それはなんだ?」
遼祐の手に持っている包みに一瞥をくれ、光隆が問うてくる。
「……薬です」
「抑制剤か?」
何故か素直にそうだとは言えず、遼祐は口を噤んだ。
「こないだの発情期がなかったのもそれのせいか」
光隆はそう言いつつ、遼祐の前に立ち塞がった。
「オメガとしての役目まで放棄するとは、随分と俺も舐められたものだな」
自嘲するように笑みを浮かべた光隆に、遼祐は悔しさに歯噛みする。
先刻にルアンに言われた言葉を思い出し、遼祐は腹に力を込める。
「貴方はーー」
遼祐はゆっくりと口を開く。
「僕を番にしてくれない。そのうえ、僕を使用人の手篭めにまでしようとした」
遼祐の思わぬ反撃に、光隆は一瞬虚を突かれた表情を見せた。
「僕はそれを知って、どれほどまでに失望したか。発情期の苦しみを理解すらしようとしない貴方に、僕がどれほど悲しい思いをしているか。貴方は分かってはくれない」
「だったら何だというんだ」
眉を顰め、唸るように光隆が漏らす。
「僕がオメガの役目を果たせないんじゃない。貴方が僕にその役目を果たさせてくれないんだ」
いつの間にか握りしめていた拳を、強く握り込む。これで追い出されようと、殴られようと本望だった。
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