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沈黙が流れた後、光隆が苦虫を潰したような表情で口を開く。
「……良いだろう。番にしてやる」
上からの物言いに憤りを覚えるも、光隆が初めて自分の意見を組んだことは驚きだった。
「発情期が始まったら俺の部屋に来い」
そう言うなり、光隆は踵を返し一人で屋敷へと戻っていく。
遼祐は一人残され、手に持っている包を見下ろした。
光隆に初めて、部屋に呼ばれたのだ。これでやっと番になれる。
それなのに何故か心持ちは一向に晴れない。
番になってしまえば、自分は光隆にしか発情しなくなる。光隆だけ、身を捧げる身体となる。それがあるべき自分たちの形だ。
分かっていても受け入れられない心の変化に、遼祐自身も酷く戸惑った。
光隆が番になると宣告されたとルアンに伝えると、ルアンは「良かったじゃないか」と言って声を弾ませた。
「これで少しは番としての絆が出来るはずだ。子供でも出来れば、少しは彼も丸くなると思うぞ」
「……そう思いますか?」
光隆から言われて三日が経つが、一向に迷いは拭えない。
「ああ。父親になれば変わるはずだ」
そう言って腰を上げたルアンはお祝いだと言って、カルダに祝いの席を設けるように命じた。
そこまでしなくてもと、遼祐が止めようとするもルアンは「良いからリョウスケは座って待て」と言って、椅子に座らされてしまう。
カルダも「おめでたいことで」と言って張り切っているようだった。並べられていく豪華な料理に、余計に気を揉まれてしまう。
「リョウスケの新たな門出を祝して」
そう言ってワインを掲げたルアンが、乾杯の音頭を取った。
「お口に合いませんか?」
食が進まない遼祐に、カルダが不安げな表情を浮かべた。
「そんなことないです。とても美味しいです」
そう言って笑みを作るも、一向に喉を通っていかない。
「リョウスケはもっと食わなきゃ駄目だ。細すぎて、抱きしめたりでもしたら折れてしまいそうだ」
一瞬、強く心臓が打つ。固まる遼祐に気づくことなく、ルアンは酔いで上機嫌だった。
「ルアン様。飲み過ぎないでくださいね」
カルダが窘めるも、「せっかくの祝いの席なんだ。止めるな」と言って、ルアンはグラスを傾ける。遼祐も酒を注がれ、随分と酔いが回っていた。
酔っ払いの状態で家に戻れば、光隆に何を言われるか不安だった。番になることを受け入れたとはいっても、遼祐自身を受け入れているというわけではないだろう。
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