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「なんでこんな場所にいるんだ! 船内までお前の匂いがしたぞ!」
ルアンが手で鼻を押さえ、仁王立ちしていた。
「……すみません。僕、やっぱり……」
「とにかく立て! その匂いに引きつけられた奴らに狙われるぞ」
そう言ってルアンが膝を付き、遼祐の腕を取る。肩に腕を回され、遼祐は立ち上がろうと膝をつく。
「っ……」
足裏をついた途端、鋭い激痛が走った。あまりの痛みに遼祐は再び膝をついてしまう。
「怪我しているじゃないか。すぐに手当てしてやる」
そう言うなりルアンは遼祐を横抱きにし、走り出した。凄い速度で船に飛び乗ると、待ち構えていたかのように、カルダが布を鼻に当てつつ甲板に立っていた。
「やはりリョウスケ様でしたか。一体、どうされたのですか?」
カルダが驚いた声を上げる。
「ここに湯の準備をしてくれ。怪我をしてるから治療する」
「わかりました」
カルダは慌てた様子で、船内に入っていく。
「リョウスケ。寒いが少し我慢してくれ」
遼祐を壁に寄りかからせると、ルアンは自分の上着を脱ぐなり遼祐にかけた。
「潮の匂いで多少耐えられるが、傍に居続ければ俺も当てられてしまう。俺たちは鼻が利くから余計にだ」
ルアンは限界に近いようで、立ち上がろうと腰を上げた。
「ルアンさん――」
ルアンの腕を掴み、遼祐はルアンを見上げる。足の痛みもあったが、それ以上に身体は欲情の波に飲み込まれていた。
「僕を……助けてください」
ルアンの見下ろす目が、僅かに見開かれる。
「助けてやる。だから、此処で待っていろ」
そうじゃないのだと、遼祐は首を横に振る。
「僕が番になりたいのはあの人じゃなかった……」
顔を顰めるルアンを見上げ訴えかける。
此処に自然と足が向いていた。
それはルアンを求めていたことに他ならない。
「僕は疎い人間だった。光隆さんが番になると言ってくれたのに、僕は躊躇ってしまった。その時点で気づくべきだったのです」
掴んでいる手に力を込める。柔らかな毛の感触が肌を撫でた。
「僕は貴方に会いたくて此処に来たのです。だから――」
暖かな感触が全身を覆い、遼祐は口を噤む。
「リョウスケ。本当に良いのか?」
耳に触れる熱い呼吸と共に問われ、遼祐は首を縦に動かす。毛に覆われた肩口に顔を埋めると、干したばかりの布団の香りがした。
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