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 ルアンは夜分遅くに戻ってくるなり、応接室に遼祐を呼んだ。  真剣な顔で座っているルアンの向かいに、遼祐は少し緊張した面持ちで腰掛ける。 「リョウスケ。今日、芳岡家に行ってきた」 「……はい」 「俺がリョウスケと番になった話をした」  心臓が跳ね上がる。  淡々とした口調のルアンからは何があったか読み取れず、先を促すように遼祐は短く返事をするに留めた。 「俺はまず、横恋慕になったことを謝罪した。それからリョウスケを幸せにすると誓った」 「両親はなんと?」  はいそうですかと納得するような家族ではないのは確かだ。 「最初は驚き、怒り狂っていた」  分かっていたがやはり、心持ちは重く沈む。きっと、ルアンは酷い目にあったに違いなかった。 「すみません……僕のせいで」 「謝るのは違うぞ。リョウスケ。俺もお前と番になることを望んでいた。それに最初に言っただろう。俺が全て責任を負うと――俺は番になった相手を守れないような男ではない」  そう言い切るルアンの瞳は、強い光を放っている。 「話を戻そう。俺は父上に商談を持ちかけた」 「商談ですか?」 「ああ。要は天堂家より利益が得られれば文句はなかろう。だったら、芳岡家の船を天堂家で買っている三倍の量を買うと言ったんだ」  そう言ってルアンは机に置かれていた紙を一枚、遼祐の前に差し出した。 「これは契約書だ。それから――」  そう言って白い封筒から一枚の紙を取り出す。 「これは離縁状だ」  広げられたそこには、同意の上での署名とすると、光隆の硬質な字で書かれていた。  遼祐は驚きのあまり言葉を失う。 「天堂家を縁故にする必要は無くなったからな。光隆氏はあれでも食い下がってきたが、捨てられた男が騒いだところで負け犬の遠吠えでしかないと言ってやった。日本ではよく、そう言うのだろう?」  信じられない状況に、遼祐は紙に落としていた視線から顔を上げることが出来ずにいた。ルアンの問いかけにも、喉に何か異物があるかのように声が出てこない。 「リョウスケ、後悔しているのか?」  いつの間にか涙が、遼祐の頬を伝っていた。慌てて拭い、首を横に振った。後悔などしていない。 「ありえないことだと……ずっと思っていたのです」  やっとの思いで、遼祐は掠れた声で言う。

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