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第2話

 平日か休日かでいえば、平日。  俺、篁 澪音は珍しく定時でSTRAWBERRY CROWN、つまり、職場を後にしていた。昨日は何とか、夜2時前に仕事を終えることができ、家に帰った。 「本当にお疲れ様でした、篁くん」  と、東江さんが言い、明日は休んでもくれても良いから、と微笑む。確かに、25で20代も半ばに差し掛かってきていて、なかなか日々の疲れが取れなくなってきた身体にはありがたい申し出ではある。  が、俺が休んだ分、東江さんにシワ寄せがいっても、嫌だった。 「いえ、俺は大丈夫です。これでも、学生の頃は夜中にゲームやったり、サッカー見てたりしたんで」  俺は東江さんにちょっとした見栄を張ると、できるだけ東江さんに爽やかに見てもらえるように笑った。すると、東江さんは羨ましい限りですね、と返した。 「羨ましい……って東江さんが俺を、ですか?」 「ええ、篁くんは若いっていうか……あはは、何だか、こんなことを言うと、おじさんみたいですね。もう44だからおじさんはおじさんなんですけど」  はにかむように笑う目の前の人を見る限り、「おじさん」というのは少ししっくりとこない表現だと思う。本人が聞いたら、高確率で、困ったように眉を下げるか、謙遜するかだろうが、例えるなら戦場に咲く白百合のように俺の荒んだ心を癒してくれる。また、陰となり、日向となって、残業やクレームといった戦火から俺の身を案じ、守ってくれる。  可憐にして、力強い。  力強く、可憐だが、儚くも見える。  そんな男(ひと)を目の前にして、「おじさん」と呼び、分類するのは俺にはできなかった。 「東江さんはおじさんじゃあありません」 「篁くん?」 「東江さんは室長なのに、俺達以上に俺達に気を遣って、気にかけてくれています。仕事も丁寧で、人柄も温かくて、俺、尊敬しています」  俺の言葉に、東江さんは手にしていた鞄を落としてしまう。  やばい。できるだけ声や気持ちが上ずらないように、声のトーンを程よく下げ、さり気なく褒めたつもりだった。だが、ちょっと行き過ぎてしまったのかな、と思うと、俺は動揺しながらも大丈夫ですか、と鞄から飛び出た品の良さそうな薄いブルーと濃いブルーのハンカチを拾う。 「ありがとう、すみません。折角、篁くんが褒めてくれたのだから、年は変えられなくても、年相応にお礼が言いたかったのに」  年相応に、クールに、と東江さんはまた花が綻ぶようにはにかむ。  確かに、普段の室長であれば、そちらの方がしっくりくると思う。あの朝一の、髪型を整髪料でかっちりと固め、きっちりスーツを着こなした東江さんであれば。  ただ、既に日を跨ぐような残業を3日も4日も続けているのだ。  それに、仮に鞄を落としたのが連休明けの東江さんであっても、愛せると思った。

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