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第3話
平日か休日かでいえば、休日。
俺、篁 澪音はSTRAWBERRY CROWN、つまり、職場へ来ていた。一昨日に納期という山を越え、昨日は定時に帰った。だが、アプリは世に出せばそれで終わりという代物ではない。むしろ、世に出て、テスト段階では想定されていなかったバグが発見される。すぐメンテに入るなんてこともしばしばだった。
「この分だと遅くともお昼すぎで片がつきそうですね」
今日、来ているのは東江さんと俺だけだが、東江さんの言うように十分、13時前くらいのメンテナンスで終わりそうだった。
「そうですね。ちょっと拍子抜けですかね……まぁ、納品前に気づけたらもっとベターだったんでしょうけど」
自分で言うのもなんだが、篁 澪音はそれなりに優秀なプログラマーであるとは思っている。STRAWBERRY CROWNへ来る前はそれなりの企業でプログラムを任されていたし、仕事の評価もそれなりに良かったと思う。
ただ、最年少でプロジェクトのリーダーになることになり、人に教えるとか、企画を上へ説明するとか……そんな仕事が段々と増えていった。それが苦痛になっていき、退職した。
「まぁまぁ、篁くんが優秀だからこのくらいで帰れるんですよ。もし、私1人だったらここまで早く原因が解明できていたか……」
東江さんにそんな感じで褒められると、頬が緩みそうになるものの、俺は顔を引き締めた。その上で、「俺1人でもこんなに早くメンテ終えられなかったですよ」と謙遜してみせた。
「ふふ。お互い、折角、休日に出てきたので、これが終わったら、一緒にお昼でも食べに行きませんか? あ、もし、何か予定があったら、そちらを優先してくだされば……」
東江さんの言うように、仮に予定があっても、俺は東江さんとのランチを優先するだろう。東江さんが提案してくれるのならモーニングでもディナーでも、どこへでも行くだろう。
俺は「是非ご一緒したいです」と言い、残りの仕事を片付ける為、スマホの画面に目を落とした。
「さて、何を食べに行きますか?」
東江さん、それに俺の見立て通り、STRAWBERRY CROWN、つまり、職場を後にしたのは12時40分頃だった。セキュリティーに連絡をし、戸締りを確認して、会社を出る。
「何でも。俺、好き嫌いないので。東江さんは何か、苦手なものとかありますか?」
「私……ですか?」
「ええ、東江さんですよ。苦手なものがなかったらお好きなものとかでも……あ、ケーキがあるようなお店とかが良いですかね。いつも差し入れてくださるケーキには負けるかも知れないですけど」
俺はそんなことを言いながら、スマホのグルメアプリを起動する。
戦場に咲く白百合のように可憐であるとは言え、東江さんはれっきとした男性だ。そして、俺、篁 澪音も同じく男だ。カップルや女の客ばかりのカフェには少し入りにくいだろうし、偏見かも知れないが、カフェはケーキやドリンク類は良いとしても、食事がイマイチなことが多い気がする。
ここはスイーツが充実しているビュッフェ形式の店が良いだろうか。ただ、今からだと混んでいるだろうか。
「それか、ケーキだけ買って、俺の家で食べるとか? チャーハンとかリゾットくらいならすぐ作れますけど」
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