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第4話
平日か休日かでいえば、休日。
俺、篁 澪音はSTRAWBERRY CROWN、つまり、職場へ休日出勤の為、来ていた。そして、今は仕事を終え、東江さん御用達のケーキ屋へ寄り、なんと東江さんのマンションへ向かっていた。
「ケーキを買っていくなら私の家の方が近いでしょう」
東江さんはケーキを3つ買い、土曜日限定販売だという焼き菓子の詰め合わせを買う。
内訳としては、ケーキ2つは東江さんので、1つは俺のものだった。そして、焼き菓子の詰め合わせは月曜日に社の皆に配る用だという。
「本当にケーキ、もう1つ、買わなくて良かったんですか? 篁くんには本当にお世話になっているし、気にしなくても良かったですよ」
東江さんは歩きながら俺の顔と店名が筆記体で書かれた紙袋を見る。
殆どが東江さんのものか、職場の皆に買ったものだからと、東江さんが持つと言ったのだが、そこは家に招かれる側であるとか、昼食の材料やケーキ代を負担される側であるとか。そんなことを考えから除いても、俺が持つべきだろう。
「いえ、すみません。その、とても2つは食べられそうになくて」
「あ……すみません。そう言えば、篁くんはあまり甘いのが好きではなかったですよね」
東江さんはハタと気づいたように、謝る。
俺はどうして、この人は……なんて愛しく思うと、急いで否定した。
「あ、いえ。すみません。そういう訳ではなくて……あのお店のケーキは甘すぎないから俺も凄く美味しく食べれるんです。それに……」
「それに?」
「俺も東江さんに色々お世話になっているのに、いつも良くしてくださっていて……それだけで、もう胸がいっぱいなんです」
拙いながらも、それは俺が東江さんへ抱く、嘘偽りの一切ない言葉だった。
万が一の仮説でも、考えたくもないが、東江さんがSTRAWBERRY CROWNを辞める。
そんなことが現実になってしまったら、絶対ショックで、それこそ食事も咽喉を通らなくなると思う。睡眠も取れなくなると思う。
彼の存在自体で既に俺は同じだけのものを東江さんには返せない、と思っていた。
「篁くん……」
「だから、ケーキを2個、買っていただいても、東江さんに返せるようなヤツになりたいと思います。まぁ、何年もかかるでしょうけどね」
俺は東江さんが好きだという気持ちを抑えると、「それまで、俺の上司、辞めないでくださいね」と笑った。それに、東江さんも笑ってくれた。
「分かりました。篁くんは私の部下じゃなくてもやっていけるでしょうけど、篁くんの上司、頑張りますね!」
東江さんはマンション前にあるテンキーを幾つか、押すと、自動ドアを開ける。
駅前の、新しく建ったばかりのグレーとロイヤルブルーを基調としたマンションは洗練されていて、東江さんに合っていた。
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