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第8話

 平日か休日かでいえば、平日。  私、東江匡一郎は自宅にいた。  というのも、既にSTRAWBERRY CROWN、自宅での勤務を終えていた。  そして、PCの前に座り、同じ会社の篁くんと話していた。立場上は私が室長で、篁くんは同じ部屋のエースSEといったところだろうか。 「近くでも良いから旅行とかに行きたいですね。普段は車には乗らないんですけど、叔父は車好きでしょう。車、借りて、ドライブしたりするのとか結構好きなんですよね」  篁くんはそんなことを言うと、サラミやピーマンの乗ったピザをフォークで小さく切り、口へ運ぶ。あの王来王家の甥御さんとは思えない程、品が良い食べ方にどきりとしながら、私は彼に話を合わせる。 「確かに彼は車、好きですね。学生の頃から暇さえあればカタログ見てて。でも、旅行するの良いですよね。美味しいものを食べたり、静かなところでゆっくりしたり、あ、お土産を買ったりするのも楽しくて……」  私がつい、「篁くんと旅行できたら楽しいでしょうね」なんて零してしまうと、篁くんも「是非、行きましょう。俺、いくつかプラン、立てますよ」なんて言ってくれる。  そんな彼を見て、私は嬉しいのと、残酷なのと複雑な思いになる。 「(ごめんね、篁くん)」  私は真っ暗になったPCの画面に向かって、告白する。  篁くんが自分に対してどういう気持ちを抱いているのか。それに気づくくらいには年を重ねてきたつもりだ。篁くんの気持ちに気づかない振りをして、篁くんから言ってくれるのを待っている。 「(私は随分とズルい人間になってしまった)」  私は篁くんとのリモート飲み会で飲み切れなかった白ワインをグラスに注ぐと、STRAWBERRY CROWNの帰りに買っていたケーキを用意する。  甘いものが苦手な篁くんも美味しいと言ってくれていた苺のショートケーキ。  フォークを用意すると、王来王家から電話がかかってきた。 「王来王家?」  篁くんを始め、STRAWBERRY CROWNの子はみんな「くん」づけで読んでいるが、王来王家は同じ大学の同じ研究室にいた同級生になる。  勿論、立場上は社長なので、必要な時は社長と敬称で呼ぶが、驚く程、そんな時は訪れない。  しかも、気遣いや言葉遣いがしっかりして、仕事振りも丁寧な篁くんとは違い、かなり社長らしくないのだ。

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