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「ツバサぁ、また来るねぇ」
「うん、待ってるよ」
21時55分、歌舞伎町ホストクラブ「club Knight 」、ナンバーワンホストの「ツバサ」は店の前で客を見送った。
客の乗ったタクシーが見えなくなるとツバサは振っていた手をおろして大きなため息をつく。
「うへぇ…ツバサ、お疲れ。飲めねぇヘネシー入れられて…」
「やっちゃーん! もうだめ、吐きそう! 俺ウイスキー原液はダメなんだってぇ!」
一緒に見送りに付き添ってくれたのは同じ年のホスト・八代 、売り上げトップ10には入る人気のホストだがツバサほどではない。しかしツバサとは大の仲良しだった。なのでツバサはこうして八代に甘えることがほぼ毎日だった。
「はいはい…このあと指名は?」
「まだ…」
「タケさんがついてるとこ、いつもの泡嬢だからお前の好きなカシオレでも飲ませてもらってこい」
「うん!」
ツバサは「カシオレ♪」などとウキウキしながら店に戻ろうとした。顔をあげると道の向こう側によく知った顔が歩いてくる。
「あ……み、お…」
声をかけようとしたが、その人物の隣には背の高い壮年の男性が並んでいた。
「………またかよ」
ツバサは奥歯を噛む。泣きそうになる目をつぶって頭を思い切り振った。
(澪…やめてくれよ………自分を傷つけるのは)
「ツバサ?」
八代に声をかけられてハッとしたツバサは今度こそ店に入ろうと扉に手をかけた。
「あの! すいません! 10時から面接なんですが…」
今度は八代も動きを止めて声のする方を振り向いた。そこにはカジュアルなジャケットを羽織った黒髪の背の高い青年が恐る恐るというように立っていた。
「10時から面接の、黒川 です」
「ああ…えっとちょっと待ってて、支配人呼んでくるから」
八代は先に店に入っていき人事を請け負っている人間を呼びに行った。なんとなく残ってしまったツバサと黒川と名乗る青年は二人きりになってしまう。そしてツバサは驚いた。
「………正義…さ…」
驚いたと同時に涙が流れた。
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