7 / 9
7
仕事から帰る「ツバサ」こと翔眞、歌舞伎町ナンバー1のホストの住まいは都内のタワーマンションなどが相場なのだが彼の姿はゴールデン街にほど近い古い商店や飲み屋が並ぶ場所にあった。
翔眞の実家は「呑み処 源蔵 」という小さな居酒屋で、住まいも店の上階、築40年はくだらない古びた建物だ。店の入り口が彼の家の玄関でもある。暖簾を下ろして施錠されている引き戸を解錠して開けると、ビールケースが入り口のすぐそばに置かれ、カウンターの上に椅子が置かれて開店前に掃除をしやすいようにしてある、いつもの風景だった。店の奥にある急な階段を上り古い木製のドアを開けると狭い居間にたどり着く。
4人も座れば窮屈になるちゃぶ台があり、そこに新聞を広げる父とお茶を飲む母が朝のニュースを見ていた。
「ただいまぁ」
「おかえり、ご飯は?」
「んー…なんかいいや」
「食べてきたの?」
「んーん、なんか食欲ねぇ」
もう25歳になるというのにまるで中学生のような受け答えで翔眞の母も呆れのため息をこぼす。
「ったく、金だけは一丁前に稼ぎやがって、澪は店の主人 で家族を支えてるっつーのにこのバカは」
「まったくね…ご飯、ラップかけとくからお腹空いたらあっためて食べなさいよ」
「はーい…」
グチグチと幼馴染と比較されることも慣れたものだった。
翔眞は生活力がまるでないことを自覚している。ありったけの金を使ってタワーマンションに住んでハウスキーパーを雇ったところで生活が堕落することはわかっている、だからこうして月7万円を実家に入れるだけ、趣味も特にこれといってあるわけでもなく、銀行口座の残高が一桁一桁増えていく日々を過ごしていた。
翔眞には明確な目標もない、ただなんとなく働いていたら天賦の才なのかナンバー1になってしまった。
寝る前にシャワーを浴びて、6畳の決して綺麗ではない自室に入って、10年以上変わらぬシングルベッドにゴロンと寝転がってスマートフォンでゲームを始める。この姿、月に7桁も稼いでいることを除いたらただのパラサイトである。
(あの新人くん…本当にそっくりだったなぁ………)
「新人っつーか、その前に採用されんのかね……ってああああああああ!」
考え込みそうになった途端、ステージボスに自パーティーがコテンパンにやられてしまい翔眞は一気に落ち込んだ。スマートフォンを雑に置くと、寝返りしてなんとなく壁を見つめながら微睡 む。
「澪……正義さん泣いてっぞ…」
ともだちにシェアしよう!